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非現実的な中国に対する米国の貿易赤字削減要求の背後事情

ポイント
・今回の米国による中国に対する2,000億ドルもの貿易赤字削減要求では度を過ぎていて米国の供給能力を考えると非現実的であり、本当の狙いが別のところにあるのは明らかだ。中国側の対応に米国側が納得せずに追加措置に動こうとしているのも当然である。
・米国は90年代に入り東西冷戦の終結とともに世界覇権の絶頂期を迎えたが、そこでは多国籍企業主導で中国沿海部で生産工場を設けるグローバル生産体制で世界経済成長が牽引され、資産効果により米国の家計が所得以上に消費社会を謳歌したことでそれを支えた。
・ところが、リーマン・ショックにより資産効果の剥落から米国では中産階級の没落による所得・資産の二極化が顕在化し、中国沿海部でも人件費の高騰からグローバル生産体制が機能しなくなってしまい、米国経済の生産性=潜在成長率が低下してしまった。


報復措置の応酬を繰り広げる米中両大国

 次に米国と中国との間での貿易紛争について考察していく。この問題についてはこれまで、当欄でたびたび断片的に採り上げてきたのでかなりの部分が繰り返し述べることになるが、そのあたりはご容赦いただきたい。

 今回、ドナルド・トランプ米政権は15日に中国に対し、鉄鋼やアルミニウムに続いて知的財産権の侵害問題で同国からの輸入の1,102品目に25%、総額で500億ドル相当分の追加関税をかけることを正式に発表した。これに中国がすかさず反発して同規模の報復関税をかけることを表明すると、トランプ大統領が怒って19日に2,000億ドル規模の追加関税の発動を検討するように米通商代表部(USTR)に指示を出した。中国側がこれにも反発し、発動した段階でそれと同等の報復措置をとると表明している――もっとも、米国の中国からの輸入規模はそれよりかなり小さいため、どのように同等分の報復措置をとるかは不明だが。


中国側の大幅な赤字削減策に納得しなかったトランプ大統領

 そもそも、トランプ大統領は16年中の大統領選挙の際から中国からの輸入に45%の関税をかけることを提唱していた。昨年中も、北朝鮮問題を利用して攻撃に踏み切ると難民が国境を越えてなだれ込むリスクを煽りながら、水面下で資本取引の自由化を含む通商問題について交渉してきた。
 ただ今回の表立った両大国間の紛争は、3月にトランプ政権が中国に対して貿易赤字を年間で1,000億ドル削減する計画を立てるように要求したことから始まり、その直後にトランプ大統領自身がそれを2,000億ドルに引き上げた。これに対し、中国側は5月17~18日にワシントンで開催された第2回米中貿易協議で2,000億ドル相当分の削減に向けて関税を大幅に引き下げたり、優先的に米国産の購入を増やすことで輸入を大量に増加させる計画を提唱してその懐柔を試みた。
 しかし、トランプ大統領はこれにまったく納得せず、通常の貿易赤字の問題とは別に知的財産権の侵害問題を持ち出して大規模な追加関税を打ち出したところだ。


非現実的な米国側の貿易赤字削減要求

 まずここで指摘すべきことは、米国側の要求がいかにも度を過ぎていて非現実的であることだ。17年の米国のサービスを除くモノに限定した対中国貿易の内訳を見ると、輸出が1,302億ドルに対して輸入が5,054億ドルであり、差し引き3,752億ドルの赤字だ。
 中国側が米国側の要求に応じて、輸出自主規制ではなく関税を大幅に引き下げたり米国産の購買量を増やすなど輸入を超大規模に増やすことで対処する姿勢に出たのは、米国側の足元を見てのものである。米国では製造業が空洞化しており、それほどの規模の輸出を増やせるほどの供給能力がないからだ。いわば「2,000億ドル減らせというならその分だけ買ってやるから、品物を出せるものなら出して見ろ」ということだ。その協議で中国側の代表団を率いたのが劉鶴副首相だったが、そのあたりは、さすがに習近平国家主席の側近の経済ブレーンとして仕えてきた人物だけのことはあるといえよう。
 ただ、そもそも米国側が中国側が受け入れるのが極めて困難な要求をしたこと自体、最初から合意する気がなかったのは明らかである。米国側がそうした中国側の対応をまったく評価せずに、知財権の侵害問題を持ち出して500億ドル相当分の追加関税を発動し、さらに2,000億ドル相当分の追加措置に動くことも最初から想定通りの動きなのだろう。中興通訊(ZTE)の制裁問題も含めて、米国の狙いが別のところにあるのは明らかである。


米国の世界覇権の絶頂期で支配的だったグローバル生産体制

 ではその狙いは何かというと、当欄ではこれまで、その本当の狙いが中国側に「中国製造2025」の撤廃や技術強要の禁止を受け入れさせることであることを述べてきた。それを説明するためにも、やはりこれまで当欄で指摘してきたことだが、時代背景の変遷を振り返りながら、トランプ政権の対中国を中心とする世界戦略について今一度、述べる必要がある。

 米国の世界覇権は89年11月のベルリンの壁崩壊と91年1月のソ連の解体により東西冷戦が終わり、米国が世界で唯一の超大国になったことで絶頂期を迎えた。その絶頂期は90年代から00年代後半まで続いたが、特にそれが軌道に乗ったのが95年にロバート・ルービン財務長官(当時)がドル高政策を推進してからのことであり、それとほぼ同時期に携帯電話やパソコンが一般的に普及していったのも決して偶然ではない。
 その時代において世界経済を牽引したのが多国籍企業主導によるグローバル生産体制だった。人件費の安価な中国沿海部に生産工場を建設して低付加価値の加工組み立て業務を行い、原材料は他の途上国から、生産機械その他の資本財や高性能の部品は日本からの供給で賄い、デザインその他の高付加価値分野の仕事は米国のような先進国が請け負うというものだ。そうした多国間にわたる分業体制により生産された製品を、世界の一大需要基地である米国に輸出していくことで経済活動が成り立っていた。
 そうした生産システムを本社の管理部門が統轄したが、その背景には東西冷戦が終わったことで、それまで米軍が握っていた最先端の情報技術が民間に開放されたことで、情報技術(IT)革命が普及したことがそれを可能にした。


ドル資金が米国内に還流し資産バブルに拍車をかける

 また、80年代のロナルド・レーガン政権下で規制緩和・自由化政策が推進されたことで金融業では証券化が進み、それが90年代にIT革命が進んだことで投資銀行業が飛躍的に発展したことも、そうした生産システムが機能することに大きく貢献した。安価な新興国の労働力が生産システムに組み入れられたことでインフレ圧力が弱まり、慢性的にディスインフレ状態が続いたなかで、90年代にいち早くバブル崩壊に苦しんでいた日本の日本銀行(日銀)を筆頭に、先進国の中央銀行が緩和的な金融政策を推進したことから、株式や住宅その他の資産価格がバブル的に高騰した。
 米国の家計は本当は80年代以降、製造業の衰退から中産階級が没落して所得や資産の二極化が進みつつあったが、90年代半ば以降、資産価格の高騰による資産効果から多くの人たちが所得以上の消費社会を謳歌できた。それにより米国の貿易・経常赤字が著しく増大していったが、米国では投資銀行業の競争力が圧倒的に強かったことから、海外に流出したドル資金はその多くが米国債に投資されるなど、証券投資により米国に還流していき、それが米国の資産バブルにさらに拍車をかけることになった。
 この時代に「世界皇帝」として君臨したのが、欧州ロスチャイルド財閥と同じ思考概念である米ロックフェラー財閥の総帥であり、親イスラエル左派であるコスモポリタン的な世界単一政府系のデイヴィッド・ロックフェラーだった。


バブルは必ず崩壊し国際収支不均衡の拡大にも限度がある

 しかし、バブルは必ずいつかは崩壊するものであり、米国の経常赤字と中国を中心とするアジア諸国の経常黒字がいつまでも膨れ上がるものではない。08年9月にリーマン・ショックが起こったことで資産効果が剥落すると、米国の家計では中産階級が没落していたのが顕在化してしまい、需要が構造的に押し下げられてしまった。その一方で中国沿海部でも高成長が続いて十分に経済発展をしたことで人件費が高騰したため、グローバル生産体制がうまく機能しなくなってしまい、多国籍企業が十分な収益を上げられなくなってしまった。
 米国内で需要増大が見込めなければいくら中央銀行が資金供給をしても設備投資が活発にならないのは当然であり、その結果、米国経済の生産性=潜在成長率が低下して今日に至っている。リーマン・ショックが起こったのを機に米国の世界覇権が絶頂期を過ぎて斜陽期に転じたが、それとほぼ軌を同じくしてデイヴィッド・ロックフェラーが大往生を全うして逝去したのは決して偶然であるとはいえないだろう。


 明日、明後日もこの続きを掲載します。
 明日は米国の世界覇権の斜陽期に登場したトランプ政権の歴史的な役割に焦点を当てながら、対中国を中心とする世界戦略を考察したうえで、その背後でそれを操っているユダヤ資本の戦略による歴史的な法則についても考えていきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。