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ドイツ主導の歪んだEU政策が難民問題で大きく顕在化

ポイント
・欧州では最大の経済強国であるドイツが健全財政政策に固執してきたことで、経済・財政事情が脆弱な南欧・東欧諸国では一般民衆の間でかなり不満が高まっていたが、そのドイツが移民・難民の受け入れに寛容だったことからよけいに摩擦が引き起こされた。
・15年にはイスラム国に圧迫されてシリアからの難民が激増し、その多くがドイツに向かったなかで一般市民との間で激しい摩擦が生じたが、特に保守的な南部でその傾向が強く、極右政党AfDが勢力を強めてCSU党首のゼーホーファー内相が危機感を強めている。


もとより歪みがあったところに難民問題でさらに大きなものに

 今回は北朝鮮問題を含む米中間の問題を考察する前に、これまで当欄でほとんど採り上げてこなかったので、欧州での移民・難民問題やそれに付随していたドイツの政局不安について簡単に考察しておく。筆者は最近、朝鮮半島の核問題や米中間の貿易紛争を追うのに忙殺されてあまり追っておらず、欧州内部での専門的な事情についてはそれほど詳しくない。ここではあくまでも米国との関係について必要なことを指摘するにとどめておく。

 欧州ではこれまで、ドイツが主導権を握って欧州連合(EU)の共通政策が運営されてきただけに移民・難民の受け入れには寛容な姿勢を示してきたが、その一方で健全財政政策に固執していたために様々な“歪み”がもたらされていた。経済・財政事情が脆弱な南欧や東欧諸国はドイツ主導のEU当局から財政赤字を増やすことを禁じられており、しかもそのドイツも自ら財政出動に動くことで内需を浮揚させることをせずに、もっぱら輸出を伸ばすことで景気拡大を図ってきたことから、潜在的に一般民衆の間ではかなり不満が高まっていた。
 そこに移民や難民問題が高まってきたのだが、いわゆる「ダブリン規約」によれば、難民が最初に到着した国が保護に責任を負うことが定められているため、よけいに歪みがもたらされてしまった。南欧や東欧諸国の国民にしてみれば、国家財政が自分たちのために使われずに、そうした人たちへの支援を目的に多額の支出が許容されていたからだ。
 それでも、南欧諸国はイタリアを中心に比較的に先進地域であるだけに移民や難民に対しても寛容なところがあったが、後進的な東欧では難民の受け入れを拒絶する雰囲気が強い。実際に、ハンガリーやポーランドでは右翼的な政権が成立してそうした政策が推進されている。


南部を中心にドイツで激しい摩擦が引き起こされる

 そうしたなかで、もとより欧州では地中海方面からはアフリカからの難民が、南東方面からはイスラム教徒の難民が慢性的に流入していたが、15年にイスラム国(IS)が勢力を伸ばした頃にはシリアからの難民が激増して押し寄せたことで大きな問題になった。
 当時、前記の2カ国を中心に東欧諸国の多くが難民の受け入れはおろか、国境を封鎖することでその流入をも厳しく取り締まったなかで、その多くが受け入れに寛容であり、最も経済力のあるドイツに向かった。アンゲラ・メルケル政権は自身が属しているキリスト教民主同盟(CDU)以上に親EU的で受け入れにより寛容な社会民主党(SPD)の協力を得て大量の難民を受け入れた。
 こうしたなかで、当然のことながらドイツ国内では一般市民との間で激しい摩擦が引き起こされ、特に保守的な南部でそうした傾向が強く、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を拡大させる大きな原動力になってきた。バイエルン州では戦後、ドイツを代表する右派政党としての自負からCDUに併合されるのを拒み、CDUと提携しながらも独自政党として存続してきたキリスト教社会同盟(CSU)が極めて強固な地盤を築いてきたが、近く予定されている州議会選挙ではAfDに敗れそうな雲行きになっている。
 危機感を強めたCSU党首のホルスト・ゼーホーファー内相がメルケル首相の移民・難民政策に反対し、内相としての権限で独自に自国に流入する難民の強制送還を主張していたのはこのためだ。一方でメルケル首相も、ゼーホーファー内相がそうしたことをすれば罷免する姿勢を見せている。


 明日もこの続きを取り上げます。
 欧州問題の裏側での米国の暗躍を見たうえで、先週末のEU首脳会議について概観します。
 週末の明後日には北朝鮮問題に戻り、米朝首脳会談後、両国間で核放棄の手順や期限を決める実務者協議がなかなか開催されない背景について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。