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北朝鮮問題が停滞している背後事情を拉致問題とともに探る

ポイント
・米朝首脳会談の翌週には非核化の手順を決めるために実務者協議が開催されることになっていたがまだ開かれておらず、ポンペオ国務長官も前言を撤回して期限を設けないと述べたあたり、トランプ政権の非核化等のシナリオが遅れていることがうかがわれる。
・その背景には、中国に圧力を強めるにあたり年明けからその手段を貿易問題に舵を切ったが、その要求が本命とでもいうべき「中国製造2025」の撤廃や技術強要の禁止にさしかかってきたなかで、再び北朝鮮問題でも圧力を強めることになったことがあるのだろう。
・北朝鮮の米国に対する姿勢がやや強硬になってきた背景には、3回目の中朝首脳会談が実施されたのを背景に米中両国を天秤にかけているといった指摘が聞かれるが、トランプ大統領と金正恩委員長の一体化した背後勢力を考えるとそれは考えにくい。
・もう一つの要因が日本側が要求している拉致問題の解決が困難であることであり、もとよりこの問題を大きく取り上げることで日本から戦後賠償金や経済支援を名分に巨額の資金拠出をさせて経済開発に充て、日米権力者層が利権を握るつもりでいたのだから当然だ。
・にもかかわらず、北朝鮮側が「拉致問題は解決済み」との姿勢を変えず、日本側が敵対的な姿勢を崩さないのを理由に日朝首脳会談にも応じないのは、象徴的な女性被害者をはじめ国家機密事項に触れる被害者を帰国させるわけにいかないという事情があるようだ。


トランプ政権が描いていた交渉シナリオが遅れる

 今週の最後に極東の問題に戻ることにするが、米中貿易紛争については先週までの当欄にかけて詳しく考察してきたので、今回は現状の変化に即して北朝鮮問題について考えてみる。
 6月12日の米朝首脳会談では朝鮮半島の非核化や、その見返りに北朝鮮の体制保証が共同声明で謳われたが、具体的な核放棄の手順についてはその後で両国の担当者が実務協議をして取り決めることなっていた。当時は首脳会談が開催された翌週にも会う予定とされていたが、少なくとも表向き協議が行われた形跡はない。協議を担当する米国防総省高官は以前には北朝鮮側に具体的な要求を突きつけると述べていたが、先週初25日にドナルド・トランプ大統領の側近であるマイク・ポンペオ国務長官は交渉に期限を設けないと発言した。
 ただし、ポンペオ国務長官は首脳会談が行われた翌日に、非核化の大部分は20年の米大統領選挙の実施を踏まえて、21年1月のトランプ大統領の現在の任期が終わるまでに達成することを望んでいると述べていた。そのあたり、ポンペオ長官――すなわち、トランプ政権がこれまで描いていた非核化や朝鮮戦争の終戦協定及び平和条約の締結に向けたシナリオが遅れていることを示唆するものだ。
 確かにトランプ大統領は米国内でもいまだに主要なメディアを押さえている親イスラエル左派的な勢力や、政権内部でも“ガリガリ”の新保守主義(ネオコン)派であるジョン・ボルトン大統領補佐官が主張している「完全かつ検証可能で不可逆的な核放棄(CVID)」やその一括処理による要求を封じ込めようとしている。とはいえ、それでも当初のシナリオからやや後退しているのは否めないだろう。


中国に圧力を強めるにあたり再び北朝鮮カードを持ち出す

 ではどうしてこうした事態になっているのかというと、一つには今年に入ってから中国に対する圧力の手段を北朝鮮問題からより直接的に貿易問題に舵を切ったなかで、直近では2,000億ドルもの法外な貿易赤字の削減を強請することで、その“本丸”とでもいうべき「中国製造2025」の撤廃や技術強要の禁止を求める段階にさしかかったことだ。
 法外な赤字の要求は現実的ではなく、米国側にそれだけの供給能力がないことを認識している習近平国家主席の経済ブレーンの劉鶴副首相は、とにかく“背伸び”をしてでも広範囲でかなり大幅な関税の引き下げをはじめとする大規模な輸入拡大案を提示した。しかし、米国側としては本来的に中国に対して求めているのが国有銀行や代表的な国有大企業に対する抜本的な構造改革を推進していくことであるだけに、そうした中国側の返答に納得せず、今週6日に知的財産権の侵害問題で500億ドル相当分のうち340億ドル分の追加関税を発動する姿勢を見せている。発動されれば中国側はすかさず報復措置に出る構えを見せているが、トランプ大統領はさらにその報復として2,000億ドル相当の追加関税の発動を示唆している。
 そうしたなかで、米国としては中国に対して圧力を強めるにあたり、再び「北朝鮮カード」を使う手段を持ち出してきたことは当然考えられるところだ。ここにきて、米中央情報局(CIA)が核兵器の原料である濃縮ウランを増産していることを明らかにしたのには、そうした意図があるのではないか。


3回目の中朝首脳会談が開催された背景

 なお、識者の間ではこの間の動きについて、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が中国の後ろ盾を得たので米国に対して強硬な姿勢に出るようになっているといった指摘が聞かれる。トランプ大統領が金委員長に電話番号を教えたことを明らかにし、いつでも話が出来る状態になったことをアピールしてはいたが、先々週19日に北京で3回目の中朝首脳会談が行われたことで、北朝鮮としては米中両国を“天秤にかける”ことができるようになったというものだ。
 この首脳会談は中国側が金正恩委員長を呼び寄せたとされているので、中国の後ろ盾を得たという観測が正しいのなら、中国側が米国による核放棄に向けた工程表作りに“待った”をかけ、積極的に関与しようとしていることになる。ただし、トランプ大統領と金委員長の背後勢力が“一心同体”の関係にあることを考えれば、中国の習近平主席としては北朝鮮側の本音を探ると同時に、北朝鮮側も中国側に対してトランプ政権の背後勢力の意向を伝えに行ったのだろう。


拉致問題を大きく取り上げることで日本から巨額の資金拠出を目論む

 ただ、非核化に向けた協議がなかなか始まらないより大きな要因が、日本の問題に大きく関係している拉致問題への対応だ。トランプ大統領は米朝首脳会談における首脳同士の懇談の際に拉致問題を採り上げたとされているが、それ自体は特に共同声明に盛り込まれておらず、会談が終わった後の記者からの質問に大統領が返答したに過ぎない。
 そうしたこともあって、トランプ大統領の背後勢力の性格やその本来の主張をよく理解している向きからは、安倍晋三首相が日朝和解の方向に向かわずに拉致問題のことばかり主張するので、大統領やその背後勢力から“顰蹙を買っている”といった指摘が聞かれるが、それは正しくない。
 トランプ大統領やその背後勢力としても、また北朝鮮としても、拉致問題が強調されて注目を浴びれば浴びるほど、戦後賠償金や非核化の費用といった名目で日本から巨額の資金を拠出させることが出来る。そして以前、韓国では日本から受け取った資金を親米的な軍事政権がすべて経済復興を目的に使うことで財閥が興隆したように、北朝鮮もそれを経済復興に充てることになり、そこに米系資本も進出することでトランプ一族も大きな利権を握ることになる。
 安倍首相も自身に利権の一部を譲り受けることを条件にそうしたトランプ大統領周辺の要求に“乗っている”のであり、だからこそ森友加計問題を“逆利用”することで、主計局を中心とする財務省の勢力を叩き潰したのである。


日朝首脳会談開催の必要性が認識されながらそれに応じない北朝鮮

 実際、米朝首脳会談での首脳同士の話し合いの際には、トランプ大統領は金正恩委員長に対して「非核化を実現すれば経済制裁は解除されるが、経済支援のための資金は日本から出る。そのためには拉致問題を解決する必要があるが、それをうまく処理して日本側と“阿吽の呼吸”で緊張状態を強めながら多くの拉致被害者を帰国させれば、より多くの資金が拠出されることになる」と口説いており、金委員長も納得していたとされる。
 実際、そうしたやり取りの報告を受けて、日本の官邸ではいろいろな外交ルートで日朝首脳会談の開催に向けて動こうとしていたが、北朝鮮側でも金委員長周辺ではそれ以前から韓国、米国の次には日本との首脳会談の実現が検討課題とされていたようであり、この時には改めてそうした雰囲気が強くなったようだ。
 ところが、首脳会談が実現するメドがまったく立たず、北朝鮮側は少なくとも表向きには「拉致問題は解決済み」とする従来の主張を変えず、また日本が敵対的な姿勢を改めなければ首脳会談には応じられないといった姿勢を崩していない。


どうにも難しい問題を抱えた北朝鮮

 その背景にはどのような事情があるのかというと、一つには日本との間で時期が到来するまで緊張状態を維持した方が、首脳会談を開催して拉致被害者を帰国させるとそれだけ多くの資金を受け取れると考えていることもあるかもしれない。ただより大きな問題は、図らずも大韓航空機の爆破事件の実行犯だった金賢姫(キム・ヒョンヒ)元死刑囚の証言からも明らかになったように、拉致被害者には特務機関員(スパイ)を養成するうえでその教育補佐官をさせていたなど、表沙汰になっては国家機密に関わることがあるようだ。
 特に最大の国家機密が独裁国家を牛耳っている金王朝(一族)にまつわる秘密事項であり、その多くが本当は殺害されていた事実が暴露されかねない。それもとりわけ現在、表に出ている金正恩委員長が本当は“影武者”であることだけはなんとしても隠し通さなければならない。
 ところが始末が悪いことに、拉致被害者で最も“象徴的”な存在はなんといっても高齢となった御両親がいまだにその救出に向けて精力的に活動されている女性である。その女性を帰国させるなり、何らかの形で解決しないことには日本国民の世論が納得しないと思われるが、その女性は絶対に帰すわけにいかないことだ。
 この女性は政府高官につらなる脱北者から「見てはいけないものを見てしまった」といった証言があり、金一族の家庭教師を務めていたといった話まであるほどだ。それが本当だとしたら、北朝鮮としてはどうにも難しい問題を抱え込んだことになる。

 北朝鮮側が拉致問題で“頭を抱え込んだ”状態にあり、日本から巨額の資金を拠出させるために日朝首脳会談を開催するメドが立たない状況では、トランプ政権やその背後勢力としては、在韓米軍の撤退が後ズレしてしまうとはいえ、北朝鮮の核放棄に向けた動きを加速しても無意味である。むしろ、場合によっては北朝鮮に再び強硬な姿勢を採らせることで中国に圧力を強めることができるので、その方が有利なこともあるだろう。
 いずれにせよ、米朝間の両首脳の一体化している背後勢力が、この難問をいかにして解きほぐすのか、大きな“見どころ”である。


 今週はこれで終わりになります。今回もご拝読いただき、ありがとうございました。
 次回も週明け9日の月曜日から掲載していくので、よろしくお願いします。
 なにかありましたら、書き込んでいただけると幸いです。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。