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米中貿易戦争懸念の材料出尽くしでリスク選好局面も

ポイント
・先週は知財権の侵害問題での追加関税の発動を控えて中国株安や人民元安主導でリスク回避が強まった一方で、FRBの利上げ推進姿勢や良好な米景気指標の発表を受けてイールドカーブが一段とフラット化した。
・リスク回避から世界的に株安傾向になったなかで米国株だけが堅調に推移したが、米国債も買われていた当たり、良好な経済ファンダメンタルズを映して「米国買い」の様相を呈していたことがうかがわれる。
・米中間の貿易戦争については今後も両大国間で報復合戦が繰り広げられそうだが、市場では先週までは警戒されていたとはいえこれから“慣れてくる”ことでそれほどそれに反応しなくなることで、米国株がさらに買われやすくなることも。
・米トランプ政権はこれまでは在韓米軍の撤退を最優先事項として中国にそれほど圧力を強めない方針だったが、再び貿易問題で圧力を強める方向にシフトしており、FRBのタカ派路線から投機筋の「中国売り」が再燃すれば「米国一人勝ち」に拍車も。


イールドカーブが一段とフラット化

 先週は6日に米国による制裁関税と中国の報復措置の発動を控えて中国株安や人民元安が進んだなか、株価は日本株はじめアジア株や欧州株が下げ続けたものの、米国株が“アンカー”の役割を担って切り返す場面が多かった。
 もっとも、そうした貿易摩擦によるリスク回避から株高にもかかわらず米長期金利は上昇圧力が鈍く、10年債利回りで2.8%台での推移が続いた。その一方で株高に加え、4-6月期の米実質国内総生産(GDP)成長率が4%台を記録する公算が高まっているなかで、5日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録でも利上げの継続姿勢が裏付けられたのを背景に中短期金利が上昇し、イールドカーブが一段とフラット(平坦)化している。


米国経済だけが良好な状態にあり「米国買い」に

 通常、イールドカーブがこうした状態になるのは先行き景気が鈍化していく兆しであるとされており、短期金利が長期金利を上回る逆イールドになると景気後退(リセッション)の前兆とされている。
 しかしこの間、米国株とともに米国債も買われやすい状態が続いたのは、海外から米金融市場に資金が流入して「米国買い」の様相を呈していた状況を物語るものだ。実際にこの間、ドル高がそれほど進んでいなかったにもかかわらず、「永遠不変にして普遍」の「無国籍通貨」とされる金相場が大きく下げており、最近では金の上場投資信託(ETF)の残高も減り続けていることにそれが見て取れる。
 米連邦準備理事会(FRB)が利上げ継続姿勢を示しているなかで、米中及び米欧間で貿易摩擦が激化しており、経済ファンダメンタルズ面でも中国経済を中心に新興国経済やドイツはじめ欧州経済が鈍化もしくは悪化しているなかで米国経済だけが好調に推移しているだけに、資金が米国に向かっているのは納得できる動きだ。


「貿易戦争」に市場が慣れれば株高進行も

 だとすれば、何らかのきっかけでリスク回避局面が収束すれば、資金が債券市場からリスク資産に向かうにつれて、米長期金利が上昇するとともにドル高が進みやすくなる可能性がある。
 米中貿易摩擦については米国側が知的財産権の侵害問題で中国からの輸入について500億ドル相当分に25%の追加関税を課す姿勢を示していたなかで、まず6日に340億ドル相当分について発動し、すかさず中国側もそれと同等分の報復措置に動いた。ドナルド・トランプ米大統領は6~7月には残りの160億ドル相当分についても発動する意向を示し、さらに中国側の報復措置への対抗として2,000億ドル相当分に課すことも検討するとしている。
 とはいえ、今回は初めて中国からの輸入について制裁関税が課されるのを控えて「貿易戦争」への懸念が高まったが、これからは市場ではそれほど脅威に感じなくなることも考えられる。だとすれば、市場ではリスク選好が強まりだしていき、ドル高とともに米国株がさらに買われやすくなりそうだ。おそらく、足元ではハイテク株が買われていたが、長期金利が上がりだすと利ザヤの拡大による収益環境の好転を背景に金融株に主役が交代していくのだろう。


再び中国に圧力を強める方向に

 ただし、いうまでもなくそれは「米国買い」の勢いがさらに強まって「米国一人勝ち」の構図が進んでいく一方で、欧州や新興国経済の勢いがさらに鈍化していき、新興国通貨不安が危機的な状況になっていくことを意味する。
 米国は在韓米軍の撤退を最優先事項として、朝鮮戦争の休戦協定を終戦協定に切り替え、さらに平和条約を締結するためにも、以前にはひとまず中国に対してはそれほど圧力を強めない方針を示唆していた。ところが、北朝鮮の非核化を巡り拉致問題で大きくつまずいてしまい、日本から巨額の資金を拠出させるメドが立たなくなっている。7日にはマイク・ポンペオ米国務長官が訪朝して非核化に向けた実務者協議の開始に向けた調整交渉をしたはずだが、トランプ政権としては外交政策の失敗と受け取られたくない状況のなかで、北朝鮮側の反応がいかにも不快感を示していることにそれが見て取れる。
 そこで米国側は国有企業改革の推進に向けて「中国製造2025」の撤廃や技術強要の禁止を中国側に迫るにあたり、再び貿易問題で圧力を強める方向に大きくシフトしている。そうした状況では、FRBにタカ派的な金融政策姿勢を推進させるとともに、投機筋に「中国売り」攻撃を仕掛けさせておかしくない(ただし、長期金利があまりに上がり過ぎたり、中国不安や新興国危機が強まり過ぎると、米国でも信用不安から株価が急落する恐れが出てくるが)。


 明日は先週末に発表された米雇用統計を簡単に検証します。
 明後日からの週末の2日間では、ついに先週末に米中間で貿易戦争に突入しましたが、その本質的な意義についてもう一度考えることにします。
 1日目は主にトランプ政権がこうした強硬策に出ている真の目的について、これまで当欄で述べたことと異なる視点から考察します。
 週末の2日目には、そうした保護主義的な政策が長期的に経済情勢にどのような影響をもたらすかを考えることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。