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企業側の採用掘り起こしに変化が見られた米雇用統計

ポイント
・今回の米雇用統計では非農業部門の雇用者数が20万人を超える大幅な増加となり、過去分も計3万人以上も上方修正されるなど、労働需給がひっ迫しているにもかかわらず依然としてかなりの新規雇用者が生み出されている状況が明らかになった。
・その背景には、企業側は最近では長期失業者を雇うことで対処してきており、それが全体の賃金抑制につながっていたが、最近では質の悪い労働者を敬遠して主婦層はじめ女性をより多く活用しようとしているところがあるようだ。
・そこでうかがわれることは、企業側は人口ロボットや人工知能(AI)の活用も含めて、出来る限り質の悪い労働者を雇わないで凌ごうとしていることであり、トランプ政権の支持基盤である白人の中下層労働者には恩恵が及びにくいようだ。


6月の米雇用統計の概要

 今回はついに先週末6日に米中貿易戦争の“幕が切って降ろされた”が、その前に毎月恒例のこととして、6日に6月の米雇用統計が発表されたので、その件について簡単に押さえておく。
 今回は最も市場で注目されている非農業部門の雇用者数(NFP)が前月比21万3,000人増加と事前予想を上回り、前月分の増加幅も22万3,000人から24万4,000人に、前々月分も15万9,000人から17万5,000人に上方修正された。ただ、失業率は4.0%と前月から0.2ポイント上昇して予想も上回り、インフレ動向に直接影響を与える賃金動向を測る指標として注目されている平均時給の前年同月比の伸びも2.7%と前月と変わらず、予想を下回った。
 外国為替市場では特に後者が材料視されてドル安に振れたが、株式市場では前者が意識されて上昇した。この内容は簡単に言えば雇用情勢はかなり好調な状態が続いているものの、賃金≒物価動向については上昇圧力が抑制されていることを示唆するものなので、株価には申し分のない環境であることが示されたのだから当然の動きである。


労働需給ひっ迫下で活発に新規雇用が生まれている

 順を追って見ていく。
 まずNFPについては前月比で20万人を超えて事前予想も上回る好調な内容になったが、これは“玄人筋”の間ではそれなりに予想できたものだ。サンプリングの対象となる12日の週を含む週間新規失業保険申請件数が21万8,000件と最近の趨勢からは少なめだったことや、労働省が発表している正規の雇用統計と反対の結果が出る傾向が多いオートマティック・データ・プロセッシング(ADP)社の雇用統計が17万7,000人と低水準にとどまったからだ。おそらく、展開の主導権を握る米系投機筋は、この数値が発表されてドル高に振れたところでドル売り攻勢をかけるつもりでいたのだろう。
 ただ雇用情勢を押さえるという意味では、今回、20万人を超える高水準になり、過去分も計3万7,000人も上方修正されたことで、専門家が重視している直近3カ月間の数値が21万1,000人に達した。ただでさえ労働需給がひっ迫しているなかでこれほどの雇用が新しく生み出されているのは、雇用動向がかなり良好な状態にあることを示唆するものだ。


企業側が女性の就労を増やすことで対処している

 ただここで考えなければならないのは、労働需給がひっ迫しており、企業側が新規労働者を求めてもそれに供給側が追い付かない状態にあることが指摘されていたにもかかわらず、どうして依然としてこれほどの新規労働者が生み出されているのかということだ。その背景には、通常では正規の職にありつけないような長期的に失業している人たちが就労にありつけていることや、最近では企業側がこれまで労働市場に参入していない主婦のような女性も“掘り起こして”採用していることが伝えられていることがあるようだ。
 おそらく、企業としては何らかの“欠陥”から長期的に失業している人よりは、そうした女性を雇う方が“質”の面で好ましいという事情があるのだろう。今回は労働参加率が62.9%と前月から0.2ポイントも上昇していることにそれが表れているといえる。
 失業率が前月から0.2ポイントも上昇したが、新たに労働市場に参入している人が増えているのだから当然であり、内容としてはさらに良好な状態になっていると判断できるだろう。

 平均時給がなかなか上向いてこないことについては、これまで当欄で通常、正規の職にありつけないような人たちが就労してきており、そうした人たちは低賃金の職種に雇用される傾向が強いことで説明できると述べてきた。むしろ、労働者の賃金の動向は雇用統計での平均時給より雇用コスト指数で見た方が望ましいとも指摘してきた。
 ただ今回は、完全失業者に経済的理由によるパート労働者、働く意欲はあるが求職をやめた人を加味した広義の失業率である不完全雇用率(U6失業率)が前月から上昇に、半年以上に渡る長期失業者も増加に転じている。その一方で、経済的理由でのパート勤務者が依然として減り続けているところに、企業側の採用が長期失業者より主婦層を中心とする女性にシフトしてきたことを示唆すると言える。


企業側は質の悪い労働者を雇わないで凌ごうとしている

 ただし、こうした状況は労働市場が一段とひっ迫してきていることを示す一方で、企業側が人口ロボットや人工知能(AI)を駆使することも含めて、出来る限り質の悪い労働者を雇わないで凌ごうとしていることを示唆するものだ。
 ドナルド・トランプ政権は「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を掲げて保護主義的な色彩が強い通商政策を推進するにあたり、米国内で生産活動を活発化させることで米国人の雇用を増やすことを提唱している。しかし、企業側のこうした動きは、特にトランプ政権の支持基盤である白人の中下層所得者には恩恵が及びにくいことを示唆している。
 とはいえ、それでも本格的に生産工場が米国内に回帰してくれば、企業側としても経営の合理化その他で凌ごうとしても限度があるはずだ。おりしも、6日には米政府が中国からの340億ドル相当分の輸入に25%の追加関税を発動し、中国側もすかさずそれと同等分の報復措置に動いた。既に米政府は鉄鋼やアルミニウムを対象に追加関税を課す動きに出ていたが、特定の国に対して発動するのは初めてであり、いよいよ「貿易戦争」に突入したと見て良いだろう。


 明日、明後日は米中貿易戦争の本質的な意義についてもう一度考えることにします。
 1日目の明日は主にトランプ政権がこうした強硬策に出ている真の目的について、これまで当欄で述べたことと異なる視点から考察します。
 週末の2日目には、そうした保護主義的な政策が長期的に経済情勢にどのような影響をもたらすかを考えることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。