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タカ派的でなかったが平均時給が大幅に伸びた米雇用統計

ポイント
・今回の米雇用統計は市場でタカ派的と評価されたが、平均時給が大きく伸びたのを除くとそれほどタカ派的といえる内容ではない。その背景には、トランプ政権の意向を受けてFRB執行部がタカ派的な金融政策姿勢を後退させようとしていることがあるかもしれない。
・平均時給がこれまでのトレンドから上振れして大きく伸びたのは明らかにタカ派的な要因。U6失業率、長期失業者、パート勤務者といずれもまだ改善傾向を示しているが、これが止まると全体の賃金が本格的に伸びてくる可能性がある。



それほどタカ派的ではなかった今回の米雇用統計

 先週は4日に大型台風が関西を直撃し、5日未明には北海道で大地震が起こり札幌市も強震に襲われるなど日本で大きな天災に見舞われたが、それが日本株の地合いの悪化にもやや寄与していたようだ。市場では、それ以上に週後半にドナルド・トランプ米大統領がメキシコやカナダ、韓国、中国、欧州連合(EU)と相次いで強硬姿勢で貿易戦争を仕掛けてきたなかで、ついに最後に残った日本に対してもそれを仕掛ける姿勢を示したことが、特に日本の株式市場ではより直接的に嫌気された。
 当然のことながら今回のトランプ大統領の姿勢の背後にはどのような事情があるのかをしっかり押さえる必要があるが、その前にドル相場や米国株の動きを占ううえで、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策姿勢に影響を及ぼす可能性がある8月の米雇用統計が先週末7日に発表されたので、毎月恒例のことではあるが、その内容を簡単に検証しておく。

 今回の雇用統計では、非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅が事前予想を上回ったことや、それ以上に平均時給の伸びもそれまでのトレンドを超えて予想も上回ったことが市場ではタカ派的と受け止められて、FRBの利上げ加速観測の高まりからドル高や株安に振れた。もっとも結論から先に言えば、今回の内容はFRBの政策姿勢にそれほど大きな影響をもたらすものではないが、強いていえば、平均時給を除くとそれほどタカ派的と言える内容ではない。


FRBのハト派姿勢の後退を阻害しないような内容に操作も?

 具体的に内容を見てみる。まずNFPの前月比の増加幅は20万1,000人と事前予想の19万人を上回ったが、前日に発表されたオートマティック・データ・プロセッシング(ADP)雇用統計が弱気な内容だったので、そうした結果になることはそれなりに予想できたものだ。前月分が15万7,000人から14万7,000人に、前々月分も24万8,000人から20万8,000人にともに下方修正され、その修正幅は計5万人と当月分の予想を上回った分を大きく超えた。
 今回のNFPのサンプリング対象である12日の週を含む週間新規失業保険申請件数は21万件と非常に少なかったので、素直に算出していれば当月分は30万人近い水準になっておかしくなかっただけに、作為的に実態より低めに出ていることは当然のことながら考えられるところだ。トランプ大統領の強硬な姿勢を受けてジェローム・パウエル議長はじめFRB執行部がそれまでのタカ派的な金融政策姿勢を後退させているなかで、今回の雇用統計がそうした姿勢を阻害しないように操作されていておかしくない。
 それが正しいとすれば、前月のNFPが15万人程度とかなり低めの数値を出したなかで、2カ月続けてそうした数値を出すわけにいかないので、今回は当月分については20万人をやや超える水準に設定しておいて、過去分を大幅に引き下げることで市場にタカ派的な雰囲気が強まらないように配慮したことになる。おそらく、筆者もそうした見解にはある程度は妥当性があると思っているが、今回の統計では必ずしもタカ派的とは言えない要素も含んでいることも見逃せない。


今回の雇用統計にはタカ派的といえない要素も

 それは一つには、失業率が事前予想では0.1ポイント低下するとされていたのが、結果は3.9%と前月と変わらず、予想を上回ったことだ。それでいて労働参加率が62.7%と前月から0.2ポイントも低下しており、求職者が減ったなかで失業率が変わらなかったことになるため、労働市場がかなりひっ迫した状態にあるのがやや緩和した可能性を考えないわけにいかないものだ。

 もう一つ気になるのが、NFPの増加分の中身についてである。
 民間部門の雇用者数が前月から20万4,000人増えているなかで、このうち物品生産部門は2万6,000人に過ぎず、前月分も5万2,000人から3万6,000人に下方修正されているのに対し、サービス部門が17万8,000人も占めていることだ。しかも、物品生産部門の中でも製造業が前月から3,000人減っており、前月分の増加幅も3万7,000人から1万8,000人に下方修正されている。
 これまで、製造業はトランプ政権の政策及びその姿勢が奏功しておおむね堅調に推移してきた。しかし今回の結果を見る限り、トランプ政権が中国を筆頭に貿易赤字をもたらしている国々に貿易戦争を仕掛けているなかで、その悪影響が出てくるのを見越して企業側が採用に慎重になっている可能性を考えないわけにいかない。


極めてタカ派的な内容になった平均時給の伸び

 一方で、平均時給は27.16ドルと前月比0.4%、前年同月比では2.9%も伸び、それぞれ事前予想や前月の0.3%、2.7%を上回った。これまで前年同月比では2.7%を中心に、時折り2.8%に上振れすることもあったが、総じて安定的に推移していたなかで、翌月に下方修正される可能性があるとはいえこれは極めてタカ派的な内容である。
 これまで、雇用コスト指数では明確に賃金コストが上昇していたことが示唆されていたにもかかわらず、雇用統計での平均時給の伸びがなかなか上向いてこなかったのは、通常の労働環境では職にありつけないような長期失業者が正規の職に就くようになったことで、全体の賃金の伸びが抑えられていたことがあった。それがここにきて一気に伸びが高まったのは、そうした全体の伸びを抑制する要因がそろそろ出尽くしてきたことで、ようやく賃金が伸びていくことでインフレ率が上昇していくことを暗示する数値といえなくもない。
 だとすれば、今回のNFPが過去分も含めると全体的に低水準にとどまったのは、今回は労働参加率が低下したのが気になるとはいえ、完全雇用状態に到達したことで企業側が思うように採用できなくなりつつあることを考えないわけにいかないだろう。


長期失業者やパート勤務者の採用が一巡すると賃金の伸び加速も

 もっとも、今回も完全失業者に経済的理由によるパート労働者、働く意欲はあるが求職をやめた人を加味した広義の失業率を意味するU6失業率は前月の7.5%から7.4%に低下している。半年以上にわたる長期失業者も143万5,000人から133万2,000人に、経済的理由でのパート勤務も456万7,000人から437万9,000人に減少しているなど、これら3指標はいずれも改善傾向を継続している。おそらく、こうした通常の環境であれば正規の職に就けないような人たちの採用の動きが一巡すると本格的に全体の賃金が伸びていくと思わるため、まだ本格的にそうした動きに拍車がかかる状況ではないだろう。
 とはいえ、米連邦公開市場委員会(FOMC)委員の中でも代表的なハト派とされるミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁は労働市場にはまだ「スラック(たるみ)」があると指摘しているが、今回の雇用統計の内容を見る限り、少なくともそうした状況にあるとは言えないだろう。


 明日は今月にFOMCでの利上げの決定やドットチャートの公表を控えているなかで、今回の雇用統計の結果を受けた政策姿勢への影響について簡単に考えてみます。
 明後日からの2日間では、トランプ大統領が日本に対しても貿易問題で強硬な姿勢を見せましたが、その背景について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。