FC2ブログ

記事一覧

金融恐慌を機に財政出動路線に変換

 毎度、当サイトをご覧いただき、ありがとうございます。
 最初に筆者からお知らせがあります。
 このたび、筆者が講師を務める講演会が大阪で行われることになりました。
 11月19日に大阪堂島商品取引所にて、午後1時より講演を行わせていただきます。
 またそれが終わった後も、午後3時より懇親会において、気軽に質問をしていただければお答えさせていただきます。
 無料で入場できるだけでなく、皆様方と触れ合える数少ない機会ですので、大阪及びその周辺にお住まいの方は是非、下記サイトにてお申込みをしていただいたうえでご来場いただければと思います。

http://www.sunward-t.co.jp/seminar/2016/20161119_3/index.html


ポイント
・トランプ次期大統領の政策路線は、米国の大企業群を握っている権力者層に配慮して大企業の利害を追求したもの。
・米国は冷戦の終結以降、グローバル生産体制を構築し金融業を発展させてきたが、中国沿海部の人件費の高騰やリーマン・ショックの発生でそれを維持できなくなってきた。
・1930年代の大恐慌と最近のリーマン・ショックはコンドラチェフ・サイクルの大底付近で起こったことで共通しており、それを契機に財政出動政策重視に路線転換していった。



大企業の利害を追求するうえでの路線が変わる

 共和党は従来、“カントリー(田舎、田園)”的な性格が強かったが、20世紀に入ってからはグローバル志向が強くなった。特にドワイト・アイゼンハワー政権下で、ネルソン・ロックフェラー元副大統領の“後見人”のような存在だったジョン・フォスター・ダレス元国務長官が主導権を握って以来、覇権国としてのグローバル志向を追求する傾向が強まった。表向き自由放任を唱えていても、それはリバタリアンが求めている個人やその個人が起業した企業向けというよりは、大企業の利害に沿ったものである。
 ドナルド・トランプ次期大統領は税制改革により大企業が節税のために資金を海外に逃避させるだけでなく、海外に貯め込んでいる2兆ドルともいわれる資金を米国内に還流させることも提唱している。企業が国内に資金還流させる際の税率は10%にさらに軽減するとしている。それにより表向き国内の設備投資を促進させることで雇用を増やすことを謳っているが、本来的には第一義的に大企業の利害に沿っていることは改めて指摘する必要がある。

 ここで指摘すべきことは、米国の巨大な企業群を握っている権力者層の意向や戦略が変わってきたことだ。
 結論から先にいえば、米国経済はそれまでは金融業の発展とグローバル生産体制を構築し機能させることで世界経済を牽引してきた。しかし、今ではそれを維持できなくなったことで、政府が主導的な役割を果たすことで需要を創出していく路線に変わりつつあるということだ。


維持できなくなったグローバル生産体制

 冷戦が終わり90年代に入った頃には、米国経済は産業競争力面でハイテク技術を駆使した日本の産業界に敗れてしまい、国内産業は空洞化が進んでいた。
 そこで米国の大企業群やその利害を代弁しているビル・クリントン政権下の政策当局は、冷戦が終わったのを機に軍事技術だった情報技術(IT)産業を民間に開放してIT革命を引き起こした。それにより、人件費の安価な労働者を擁する中国に加工組み立て業務の生産拠点を設け、デザインその他の高付加価値分野の生産拠点や本社の管理部門をIT産業で結び付けるグローバル生産体制を構築した。
 ただし、米国内では産業が空洞化しているなかで、低付加価値労働が中国その他の新興国に奪われて中低所得者層の労働者の環境が一段と苦境に陥ってしまった。そこでIT産業を推進役にさらに金融業を発展させていき、90年代にはITバブルが、00年代には住宅バブルを引き起こして資産価格を高騰させることで、その資産効果から家計の購買力を高めてきた。
 そうすることで、外交・安全保障面で世界覇権国である米国は、経済面でも世界経済を牽引する地位を復活させることができた。

 しかし、こうした世界経済牽引システムは、次の二つの要因で維持できなくなってしまった。一つは、多国籍企業の生産拠点である中国の沿海部の人件費が高騰してきたことであり、それによりグローバル生産体制が維持できなくなってきた。そしてもう一つがリーマン・ショックによる巨大な金融危機が起こったことであり、それにより米国が世界経済の「一大需要基地」の役割を担えなくなってしまった。
 製造業の生産拠点が中国はじめ新興国に奪われてしまい、またIT産業の発展からホワイトカラーの仕事も失われたことで、米国では本来的に中間層が没落していたが、それを覆い隠していたのが資産バブルが積み上がり、家計の購買力が実際の所得以上に高まったことによるものだった。それが08年9月から09年前半にかけての大恐慌以来の巨大な金融恐慌に見舞われたことで完全に剥落してしまい、本来的に中間層の没落から格差が拡大していたのが顕在化してしまった。
 それでも、中国ではリーマン・ショックが起こった直後の08年11月に4兆元の景気対策が打ち出されたことで世界経済は下支えられたが、それにより中国経済は過剰生産設備にさらに拍車がかかってしまい、構造的に一段と困難な状況に陥っている。


大恐慌の時と同様にそれを契機に財政出動重視路線に転換

 そこで米国の巨大企業資本を握っている権力者層が活路を求めたのが財政出動政策である。
 かつて、1930年代の大恐慌による巨大なデフレ圧力を克服するにあたりニューディール政策が実施されたように、財政面から有効需要を創出する政策が試みられた。それにより経済学の分野でも、それまでは市場重視で政府の役割を最小限にとどめることを主張していた新古典派が主流だったのが、それを機に政府の役割を重視するケインズ経済学に代わっていった。
 ただ、それでも人類史上、最も巨大な世界的な金融危機の発生による信用収縮から生じたデフレ圧力を克服するには不十分だったのであり、第二次世界大戦による巨大な軍需が創出されるのを待たなければならなかった。さらに戦後の経済復興を牽引して経済成長軌道に乗っていくことができた背景に、米国とソ連による冷戦体制が構築されたことがその大きな要素であったことも指摘する必要がある。

 1930年代に始まり40年代前半に第二次大戦が起こるまで続いた大恐慌と最近のリーマン・ショックによる巨大な金融危機は、景気循環の長波であるコンドラチェフ・サイクルの大底付近で起こったことで共通している。かつては金融恐慌の発生を機に財政出動政策で有効需要を創出する政策が主流になっていったように、現在でもそうした方向になりつつあるということだ。
 市場重視の右派経済学である合理的期待形成仮説に裏打ちされたリフレーション派も、財政政策と金融政策の併用によるポリシーミックスを重視する左派リベラル的な新ケインズ主義と本質的に変わらない。日本で強固な保守政権とされる安倍晋三政権が、既にアベノミクスで「三本の矢」として金融政策と財政政策、規制緩和を柱とする構造改革を打ち出している。これと今回のトランプ次期大統領が打ち出した政策綱領には本質的に似ているところが見受けられるのは当然なのである。
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

17894176

Author:17894176
永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。