FC2ブログ

記事一覧

「双子の赤字」対策で信用不安が引き起こされる

ポイント
・トランプ次期大統領は背後に巨大な軍産複合体が控えているあたり、レーガン政権と共通しているが、公共事業を推進しているところはルーズヴェルト大統領に近いところも。
・かつてのレーガン政権と同様に、トランプ次期大統領が提唱している政策を打ち出せば「双子の赤字」が膨れ上がるのが目に見えており、日銀に外債購入を決めさせる必要がある。
・大統領選挙でトランプ候補が勝利して以来、ドル高や株高が急激に進んでおり、それにより資金流出やドル建て債務負担の激増から新興国が苦境に追い込まれ信用不安の発生も。
・トランプ次期大統領は信用不安が高まっていた際にはFRBの利上げ路線を批判したが、今夏頃から過剰な信用創造が信用不安をもたらしたとして批判の論点が変わってきた。



レーガン大統領と相似する部分が多くある

 ドナルド・トランプ次期大統領は80年代のロナルド・レーガン大統領の相似形とする見方がある。
 レーガン大統領は就任する以前の選挙期間中には「小さな政府」を標榜し、実際に就任してからは減税政策や規制緩和を推進してその面では選挙公約を果たした。ただそれだけでなく、「強いアメリカ」を標榜しながらソ連を「悪の帝国」と呼んで積極的に軍備拡張路線を推進して国防費を増額したことで、結果的に極端に「大きな政府」を打ち立ててしまった。主要閣僚にジョージ・シュルツ国務長官、キャスパー・ワインバーガー国防長官と石油掘削・総合建設多国籍企業のベクテルの社長、副社長が就任したように、巨大な軍産複合体に操られてしまい、その意向に従って政策が推進されてきた。
 その意味で、ゴールドマン・サックスを介して軍産複合体や石油資本がその背後に群がっているトランプ次期大統領も、確かにレーガン大統領に似ているといえなくもない。権力者層がこれから中国を相手に「新冷戦」体制に持ち込むことで大規模な軍需を創出しようとしていることも共通している。

 あえて異なるところをいえば、レーガン大統領は本来的にハリウッドの俳優出身でありながら強固で保守的な活動家だったことから公共事業は打ち出さなかった。これに対し、トランプ次期大統領はあくまでも実業家であって政治活動家ではないだけに、政策面で左派的なものも取り入れてしまうようだ。
 公共事業を打ち出すことで財政出動政策の先鞭をつけておいて、それから国防費の増額につなげていこうとしているあたり、その面ではむしろ左派的で社会主義的な性格が強いルーズヴェルト大統領に近いような気がしないでもない。


「双子の赤字」の膨張は目に見えている

 とはいえ、今後の展望をしていくには、やはり時代背景が現在に近いだけに、レーガン政権の時の状況に比較する方が適切だろう。
 レーガン政権では国防費を大幅に増額したことで結果的に「大きな政府」を構築してしまい、また減税政策により家計の消費意欲が促されてインフレ圧力が強まった。しかも、もとより70年代には二度にわたる石油ショックにより猛烈なインフレ状態に見舞われていたなかで、さらにインフレ圧力を強める政策が打ち出されたため、ポール・ボルカーFRB議長(当時)が強力な金融引き締め政策を推進したことでドル高圧力が高まった。レーガン政権も「強いアメリカ」を標榜していたため、そうしたドル高傾向を容認せざるを得なかった。
 その結果、米国では財政赤字が増大し、また国際収支面でも輸入の急増から経常赤字が年間1,000億ドルを超える水準に達することで「双子の赤字」が膨れ上がり、米国は世界最大の債権国から一気に最大の債務国に転落してしまった。そこで85年9月22日のプラザ合意により、ドル相場を大幅に切り下げざるを得なくなったのは周知のことだ。

 現在のトランプ次期大統領自身が標榜している――正確にいえば、その背後で操っている軍産複合体を中心とする権力者層の意向に従った政策を打ち出せば、確実にそうした「双子の赤字」が膨れ上がるのは目に見えている。
 問題なのは、レーガン政権の時ですら米国経済がつまずいて危機的な状況に陥るといわれていたが、現在では公表されているだけで連邦政府の債務が20兆ドルに達しており、米国の世界覇権も衰えてきているなかで赤字が膨れ上がると致命的な事態を引き起こしかねないことだ。
 そうした状況を回避するには、これまで当欄で指摘してきたように、日本銀行(日銀)に外債購入を決めさせるなどして、大増刷される米国債の受け皿をしっかりと確保しておくことだ。ただそのためには、いったん信用不安を強めさせることで円高局面を到来させる必要がある。


株高による米長期金利上昇で信用不安を引き起こすシナリオか?

 大統領選挙が終わりその開票が進んでいた9日の東京市場で、トランプ候補が有利な状態にあり、さらに当選が確実な状況になっていくにつれて急速に円高、株安が進んだ。それによりそのまま信用不安が強まっていくと思われたが、海外市場に移るとトランプ次期大統領の勝利演説を機にゴールドマンが策動的に買い上げたことで株価が高騰していった。
 ただし、株高が進めば長期金利が上昇せざるを得ないが、もとより雇用統計の指標からもうかがわれるように、潜在的に賃金インフレ圧力が増しつつあることもあって上昇傾向を強めていただけに、株高から上昇圧力が一段と強まっている。もとより、指標となる10年債利回りは既にそれまでに1.8%台にまで上昇していたが、9日の海外市場から株高傾向に拍車がかかったことで長期金利もさらに上昇力が強まってしまい、足元では2.3%台に達している。
 さすがにそこまで米長期金利が上昇すれば新興国から資金流出が加速しており、人民元安をはじめ新興国通貨に下げ圧力が強まっている。例えば、ここにきての日米での株価高騰は、それによる資金流入がもたらされていることで生じている可能性があるだろう。中国を筆頭に多くの新興国は大規模なドル建て債務を抱えており、自国通貨安が進むと返済負担がさらに重くのしかかることで一段と苦境に陥ることになる。

 これまで当欄で指摘してきたように、米権力者層は軍需の創出を中心とする経済構造に転換していくにあたり、過剰な金融緩和策により債務の規模が異様に膨れ上がるなど“水膨れ”した体質をスリム化して、ある程度は是正していこうとしている。グループ・オブ・サーティ(G30)の最高幹部の1人であるスタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っている米連邦準備理事会(FRB)執行部が、穏やかながらも利上げを推進していく姿勢を見せているのはこのためだ。
 日銀に外債購入を決めさせる目的もあって信用不安を引き起こすにあたり、そのまま株価を売り崩すのではなく、いったん株価を高騰させておいて長期金利を大幅に上昇させることで引き起こすことを以前から画策していたとしたら、やはり米権力者層やその周囲の政策ブレーンの“深慮遠謀ぶり”に驚かされてしまう。


トランプのFRBへの批判の論点が変わる

 トランプ次期大統領のFRBの金融政策に対する姿勢についても押さえておく必要がある。
 トランプ次期大統領は今春に市場が信用不安に襲われていた際には、FRBが利上げを推進していく姿勢を見せているのを批判していたが、それは多分に新興国に積極的に投資してきたゴールドマンの意向を受けていたことがうかがわれた。ところが今夏頃になると、これまでのFRBの緩和的な政策が過剰な信用創造をもたらしたことで金融市場を不安定な状態に陥れているとして、批判の論点が変わったものだ。
 これこそ、まさに共和党の伝統的な金融政策の理念であると同時に、現在、米権力者層が金融政策の正常化を推進することで信用不安を引き起こそうとしているのに対応したものだ。まさに、トランプ次期大統領に近い著名投資家のカール・アイカーン氏が「米国経済はゼロ金利を維持することは不可能」と述べている通りだ。

 かつて、レーガン大統領が「強いアメリカ」を提唱していたが、トランプ次期大統領がそれに相応するのが「偉大な(グレイト)アメリカ」だ。
 レーガン政権は結果的に「大きな政府」にしてしまったためにボルカーFRB議長が高金利政策を推進していく必要があり、それによるドル高傾向を「強いアメリカ」で容認せざるを得なかった。トランプ次期政権もインフレ圧力を強めさせる政策を推進するにあたり、FRBはそれなりに利上げを推進していく必要があるが、それによるドル高の進行については「グレイト・アメリカ」の理念で容認せざるを得ないはずだ。
 大統領選挙戦では、トランプ候補は日本や中国の為替政策を批判し、中国を為替操作国に認定するように主張していたので、輸出を伸ばすことを目的に通商面重視のドル安政策を推進するといった見方があるが、それは正しくないことがわかる。ただドル高が本格的に進む前に、米権力者層や政策当局者はひとまずリスク回避による円高が到来することを望んでいるわけだ。


 今週は今回の掲載分で終わりになります。
 また来週、よろしくお願いします。
 次回はいつもより1日遅れて22日から掲載していきます。
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

17894176

Author:17894176
永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。