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インフレ圧力顕在化の兆候を匂わせる米雇用統計の内容

ポイント
・今回の雇用統計では非農業部門の雇用者数の増加幅では当月分が弱気、過去分が強気な内容だったが、失業率が0.2ポイントも低下して実に48年ぶりの低水準になったことが市場ではタカ派的と受け止められた。
・NFPの当月分が事前予想を大幅に上回る低水準になったのはいかにも不可解だが、これまでFRBの利上げ観測が過度に高まらないように過去分の数値を意図的に低めに出していたのを実勢に合わせて大幅に上昇修正するにあたり、帳尻を合わせたものと考えられる。
・ADP統計と正規の雇用統計では反対の結果になることが多いなかで、今回は中国市場が1週間にわたり休場だった最中に作為的に米長期金利を急上昇させていくにあたり、週央に発表されるADP統計を強気な内容にする必要があったといえる。
・これまでは長期失業者やパート勤務者といった通常では正規の職に就けないような人たちの指標が改善していたことが全体の賃金の伸びを抑えていたが、今回はそれが悪化しており、これまでの傾向が一巡したとすれば賃金が伸びてインフレ圧力が顕在化することも。


米雇用統計では失業率が48年ぶりの低水準に

 先週は前半にリスク選好が強まり、ダウが史上最高値を、日経平均もようやくバブル崩壊後の最高値を更新したが、後半になると米長期金利が勢いよく上昇したことで一転してリスク回避が強まるなど、かなり荒い値動きになった。その背景には今週中に述べるように米権力者層の意向を受けた米系投機筋の策動的な動きがあるが、その前に今後の米連邦準備理事会(FRB)の金融政策姿勢に政治的な要因とは別にファンダメンタルズ面から大きな影響を及ぼす要因として、先週末5日に米雇用統計が発表されたので、毎月恒例のことでもありその件について簡単に検証しておく。

 今回の9月の米雇用統計では、失業率が3.7%と前月から事前予想をも上回る0.2ポイントも低下し、実に48年9か月ぶりの低水準を記録した。労働参加率が62.7%と前月から変わっていなかったので、これは明確に労働市場のひっ迫が一段と強まってきたものと解釈して良いだろう。もとより長期金利が上がりやすいムードになっていたこともあるが、市場では一段と米国債売りを強める要因になったのも当然といえる。
 もっとも、その割にインフレ率が1年前に比べるとやや水準を切り上げているとはいえ、それでも2%近辺で安定しているのは解せないところだ。実際、平均時給の伸びは前年同月比2.8%と事前予想と変わらず、前月から0.1ポイント低下している。


不可解なNFPの当月分の増加幅

 もっとも、今回の雇用統計では市場では失業率の低下が大きな影響をもたらしたが、不可解だったのが非農業部門の雇用者数(NFP)の増加幅だ。今回の当月分のその前月比の増加幅は13万4,000人と事前予想の18万5,000人を大きく下回った。サンプリングの対象となる12日の週を含む週間失業保険申請件数が20万2,000件と極めて低水準だったので、まともに算出していれば30万人近い水準に達しておかしくなかったはずだ。
 今回の数値はハリケーン「フローレンス」の影響で一時的に下振れしているといわれており、実際、待機していた人が29万9,000人とこれまでの9月平均の8万5,000人を大きく上回っているあたり、そうした指摘はある程度は的を射ているのだろう。しかし、それでも実態より意図的に低めの数値が出ている印象を拭えないものだ。


実態に合わせて過去分を上方修正し当月分は帳尻を合わせる

 もっとも、このNFPの数値は当月分では事前予想を5万人超も下回ったが、前月分が20万1,000人から27万人に、前々月分も14万7,000人から16万5,000人に計8万7,000人も上方修正されている。その修正幅は当月分が事前予想を下回った分を上回っているあたり、決して弱気とは言えず、むしろ強気な内容と言える。
 そこでうかがわれることは、これまでは労働市場が極めて良好な状態にあるなかで、市場で過度にFRBの利上げ観測が高まらないように、実態より低めの数値が出ていたフシがあることだ。当月分の数値が実態を正確に映すものではなくても、それから2カ月間にわたり修正する余地があるからだ。もとよりこのNFPの数値はかなり“ブレ”がある性格であるなかで、市場では発表されるとその数値に大きく反応してしまうものだが、専門家は3カ月平均値で判断する傾向があることを利用しているわけだ。
 今回も前月分や前々月分を実態に合わせて上方修正するにあたり、当月分を実態より低めの数値にすることで帳尻を合わせたことは当然考えられてしかるべきだろう。


米系投機筋の米国債売りに合わせてADP雇用統計が強気に

 当月分の数値でもう一つ指摘すべきなのが、その2日前に発表されたオートマティック・データ・プロセッシング(ADP)社の雇用統計での増加幅が23万人と、事前予想を4万6,000人も上回るかなり強気な内容だったことだ。これまで、ADP統計が強気な内容になると正規の雇用統計が弱気に、ADP統計が弱気になると正規の統計が強気になるなど、ほとんど反対の結果になってきたものだ。裏側で政策当局者とつながっていることで展開の主導権を握っている米系投機筋は、それを利用して利益を得ていたものだ。
 今回もこれまでの事例と同じような結果になり、実際に3日にADP統計が発表されたのを機に、ISM非製造業景況指数が極めて良好な内容だったことも重なって米国債を積極的に売り崩したあたりから、米長期金利の“急上昇劇”が始まったものだ。後日述べるように、この急上昇劇は多分に投機筋による策動的な印象が強く、さらに裏側では政治的な配慮も見え隠れするものだ。
 先週1週間は中国市場が休場だったなかで、その隙をついて米系投機筋が米国債を売り崩したとすれば、そのタイミングとしては週末に発表される正規の統計より、週央に予定されていたADP統計を強気な内容にする必要があったといえるだろう。


改善傾向を示してきた長期失業者やパート勤務者の数値が悪化

 最後に、今回の雇用統計でもう一つ注目されるのが、長期失業者やパート勤務者といった通常では正規の職にあり就けないような人たちを対象とする指標が、これまでは改善傾向を示していたのが今回は悪化していることだ。
 完全失業者に経済的理由によるパート勤務者、働く意欲はあるが求職をやめた人を加味した広義の失業率であるU6失業率は前回の7.4%から7.5%に上昇している。また半年以上にわたる長期失業者も133万2,000人から138万4,000人に、経済的理由でのパート勤務者も437万9,000人から464万2,000人にともに増加しているなど、これらの指標はいずれも悪化している。
 これまで、労働市場がかなりひっ迫していながらも平均時給がなかなか上向いてこない理由として、こうした通常であれば正規の職に就けないような人たちが雇われていることが、全体の賃金の伸びを抑えていることを指摘してきた。これまで改善傾向を示してきたこれらの指標が今回は悪化した要因として、前記のようにハリケーンによる一時的なものか、それともトランプ政権の保護主義的な政策の悪影響が出始めてきたのか、現時点では判断することができない。ただ、こうした人たちが正規の職に雇用される動きが一巡しつつあるとすれば、全体の賃金も伸びていくことでインフレ率が目立って上昇していく可能性が高まるだろう。


 明日は米長期金利が急上昇している背景として、当然のことながら先週のFOMCでタカ派的な金融政策姿勢が打ち出されたことがその一因ですが、その背後の米権力者層の意向による策動的な動きに焦点を当てて見ていきます。
 明後日からの2日間では、そうしたFRBのタカ派的な姿勢や米長期金利上昇をもたらしている背景として、オール・アメリカン体制による水面下での中国への総攻撃の動きを見ていきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。