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今回のFRB議長の議会証言の内容の考察

ポイント
・イエレンF議長は議会証言で12月の利上げの決定を事実上「宣言」したが、他の多くのFOMC委員がそれを指摘しているとはいえ、FRB議長の発言には特別な重みがある。
・ただ以前、「高圧経済」の概念を提唱していたイエレン議長は来年以降の利上げに言及しておらず、米権力者層の意向を受けた他のFOMC委員と対立して孤立化する懸念も。
・イエレン議長は膨大な財務残高を背景にトランプ次期政権が提唱している財政支出拡大政策にも反対しており、その面でも米権力者層の意向に反するものになりつつある。



特別な重みがあったFRB議長の議会証言での発言

 その次に、17日のジャネット・イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言の内容について検討する。
 イエレン議長はそこで「比較的早い段階での利上げが適切である可能性が高い」「利上げが遅すぎると、やがてそのペースの加速を招く恐れがある」「連邦公開市場委員会(FOMC)は利上げの根拠が強まっていると認識している」と述べた。それにより事実上、12月13~14日に開催されるFOMCで2回目の利上げを決めると「宣言」したといって過言ではないだろう。
 こうしたことはこれまで、多くのFOMC委員が指摘してきたことであり、先週に入ってからの1週間だけでも次の顔ぶれが挙げられる――15日にボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁、リッチモンド連銀のジェフリー・ラッカー総裁、FRB執行部で実際に主導権を握っているスタンレー・フィッシャー副議長、16日にはフィラデルフィア連銀のパトリック・ハーカー総裁、セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁、クリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁、17日には連日にわたりハーカー総裁、18日には再びブラード総裁、ダラス連銀のロバート・カプラン総裁――といった具合である。

 多くのFOMC委員が連日にわたり相次いで12月の利上げに前向きな――タカ派的な委員はさらに踏み込んでそれを求める姿勢を示していたなかで、FRB議長が議会での公式な場所で発言する“重み”については説明を要しないだろう。
 ドナルド・トランプ次期政権に対する政策期待やインフレ期待から長期金利が勢いよく上昇していたなかで、いかに既に12月の利上げの決定を市場がかなり織り込んでいたとはいえ、今回のイエレン議長の発言を受けてさらにそうした動きが加速されたのはおかしなことではない。


FRB議長が孤立する可能性も

 もっとも、イエレン議長はこの時、12月の利上げの決定については実質的に宣言したとはいえ、来年以降に向けた姿勢については特に言及していない。
 最近の多くのFOMC委員の発言では、フィッシャー副議長をはじめタカ派的な委員だけでなく、ローゼングレン総裁やハーカー総裁といった中間派に近い委員までもが、トランプ政権が財政拡大路線を打ち出すことでインフレ圧力が強まるようなら、利上げのペースを拡大する可能性について発言しているのとは対照的である。

 以前、イエレン議長は講演で「高圧経済」の概念を正当化し、多少、インフレ圧力が増しても引き締め政策を強化せずに労働市場のパイを拡大させることを優先すべきだと発言したのが想起される。
 まるでハト派の代表格とされるシカゴ連銀のチャールズ・エバンズ総裁のようなことを述べたものだが、この考え方は通貨価値の維持を至上命題とする中央銀行関係者らしからぬものであり、また現在でも多くのFOMC委員の意向とは異なるものであり、また米権力者層の意向にも反している。当のエバンズ総裁ですら、来年にはFOMCで投票権が回ってくることもあり、権力者層の意向に沿って姿勢を変えているほどだ。
 今後、トランプ次期政権が打ち出す政策姿勢やそれにより経済・物価状況がどのような影響を受けるかにもよるが、権力者層の意向を受けた多くのFOMC委員とイエレン議長との間で対立が深まり、議長が孤立するといったことも考えられなくもないだろう。


財政支出に反対しているFRB議長

 イエレン議長の姿勢が米権力者層の意向から離反しつつある最大の論点が、トランプ次期政権が推進しようとしている財政政策について「長期的な財政赤字に留意する必要がある」と述べて、これに否定的な見解を示していることだ。
 米国の財政赤字は最近、増加しつつあるとはいえまだ水準としては低いが、公的債務残高はかなりの規模に達している。しかも、米国は世界でも群を抜く債務国であることから、基軸通貨ドルの信用性の維持を最優先に考えなければならないFRB議長がこれに反対するのは、本来的には当然のことだ。
 実際、これに肯定的なFOMC委員はあまり見当たらないが、権力者層との密接なつながりがあるブラード総裁は「的を絞った財政支出は中期的にGDPを押し上げる可能性がある」と述べて好意的な姿勢を見せている。それ以外にも、トランプ次期政権と密接なつながりのあるゴールドマン・サックス出身のカプラン総裁も、「米国はインフラ投資が不足している」として、次期政権の政策姿勢を支持する姿勢を見せている。

 これまで当欄で何度も指摘しているように、FRB執行部で主導権を握っているのは、世界の主要国の中央銀行の金融政策を実質的に統括しているグループ・オブ・サーティ(G30)から派遣されているフィッシャー副議長だ。イエレン議長は単にFOMC内部の意見集約をして、それを執行部の路線に向かうように調停してうまく調整していく役割を担っているに過ぎない。
 しかも、本来的に現在のFRB執行部は一部の理事を除いて民主党系で占められており、次期共和党政権との“肌合い”が悪くなるのは致し方ない。そうしたなかで、特にイエレン議長はフィッシャー副議長のように権力者層の“直系の子分”のような存在ではないだけに、よけいに現在の米国で財政出動政策により財政赤字を拡大させるような政策を発動するのは、非現実的で“馬鹿げている”と思うのはやむを得ないのかもしれない。


 明日はトランプタワーでの安倍―トランプ会談の意義について、明後日は歴史的な潮流からトランプ次期政権の反グローバル的な通商姿勢について考察したものを掲載します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。