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ハト派的な米雇用統計の内容 行き過ぎた債券買い・株売りの反動が出てくる可能性も

ポイント
・株価が急落しているなかで長期金利が低下して再びイールドカーブがフラット化しており、一部で逆イールドの状態になったことで米国経済がリセッションに陥る前兆と見る向きも。
・今回の米雇用統計はハト派的な内容になり、完全雇用に近い状態にありながらピークを打った可能性について考える必要がありそうだが、今すぐそれが現実化することはなくても将来的にインフレ懸念が顕在化するリスクも。
・FOMC委員ではパウエルFRB議長を除いてタカ派を中心に発言内容の論調が変わっておらず、19日に公表されるドットチャートでは前回からそれほどハト派的にシフトしていない可能性があり、行き過ぎた債券買い・株売りの反動が出てくる可能性も。


イールドカーブが再びフラット化し一部逆イールドに

 米中間の紛争が貿易問題にとどまらず、華為技術(ファーウェイ)の幹部が逮捕されるなど安全保障面にまで拡大してきたなかで、市場ではリスク回避が強まり株価が急落している。
 そうしたなかで、米債券市場では米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げ観測が著しく後退しており、長期金利の指標となる10年債利回りは9月17日に3%台に乗せたものの3.2%台までで上昇力が抑えられてしまい、12月に入ると再び3%を割り込んで足元では2.85%付近まで低下している。それにより再びイールドカーブがフラット(平坦)化しており、5年債の利回りが2年債のそれを下回るなど一部では逆イールド化している。
 株価が急落しているなかで、市場ではそれが米国経済が景気後退(リセッション)に陥る前兆と見る向きも根強いようだ。


ハト派的と受け止められた米雇用統計

 そこで今後の米国経済やFRBの金融政策姿勢を占うにあたり、毎月恒例のことではあるが、先週末7日に発表された11月の米雇用統計の内容を簡単に押さえておく。
 今回の雇用統計では失業率が3.7%と前月や事前予想と変わらなかったが、労働参加率が62.9%と前月と変わっていなかったので、これについては中立要因だ。ただ、非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅は15万5,000人と事前予想の19万8,000人を下回り、前月分も25万人から23万7,000人に下方修正された。また平均時給も27.35ドルとなり、前年同月比の伸び率は3.1%と事前予想と同じだったが、前月比では0.2%と予想を下回り、前月のその伸びも0.2%から0.1%に下方修正された。
 市場では失業率を除いてハト派的な内容だと受け止めたのも当然である。


ピークを過ぎた可能性はあるが依然として過熱状態

 NFPの増加幅が事前予想を下回ったが、前日に発表されたオートマティック・データ・プロセッシング(ADP)雇用統計も同様な内容だった。これまで、ADP雇用統計と正規の雇用統計では反対の結果になることが多かったが、同じ結果になったのは珍しいことだ。ただ、毎週発表されている週間失業保険申請件数が最近、予想を上回っていることが多いことや、ISM景況感指数での「雇用」の項目も最近2ヵ月は悪化しているところを見ると、労働市場はほぼ完全雇用の状態にあるなかでピークを過ぎた可能性を考えないわけにいかない。雇用は景気の遅行指標であることを考えると、確かにこれから景気が陰っていく可能性もあり得る。
 とはいえ、失業率は3.7%とほぼ半世紀ぶりの低水準の状態にあるなかで、FRBが均衡水準と見ている4.3~4.6%の水準を大きく下回っている。またNFPの増加幅についても最近3ヵ月の平均は17万人と、20万人を超える過熱した状態にあるわけではないとはいえ、ひっ迫した状態も変わっておらず、少なくともジャネット・イエレン前FRB議長が失業率が上昇していかない水準としていた8万5,000~13万人を依然として大きく上回っている。


将来的にインフレ圧力がくすぶる可能性も

 気になるのは、今回は平均時給の前月比の伸びが事前予想を下回ったものの、前年同月比では3%を超える伸びを維持しており、趨勢的には少しずつながら上昇傾向を継続していることだ。6日に発表された7-9月期の単位労働(ユニットレーバー)コストの改定値は前期比年率で0.9%と、速報値から上方修正されると予想されていたのが反対に下方修正されて一段と水準が低下したあたり、今すぐ賃金が大きく伸びてインフレ率が目立って上昇していく環境にはない。とはいえ、米国経済は序盤の年末商戦が底堅く推移していることが伝えられているなど依然として家計部門の個人消費が堅調な状態にある一方で、米中貿易戦争の影響もあって企業部門の設備投資の勢いが鈍化してきたなかで、地区連銀経済報告(ベージュブック)では複数の地区で関税引き上げの影響から投入物価が上昇していることが報告されている。
 米国経済はもとより底堅く推移していたなかでドナルド・トランプ政権が大規模減税政策を成立させたことで一段と人為的に押し上げた反動から、19年後半から20年にかけて景気後退(リセッション)に陥っておかしくない。それでも、将来的にインフレ圧力が顕在化するリスクがくすぶり続ける可能性がありそうだ。


ドットチャートではそれほど利上げ見通しが後退していない可能性も

 さしあたり、焦点になるのが18~19日の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げが決まるのは確実な情勢だが、声明文でこれまで明記されてきた「段階的な利上げが正当化される」という文言を修正もしくは削除されるかどうかだ。もう一つ注目されるのが、FOMC委員の先行きの利上げ見通しの分布状況を示すドットチャートの内容がどの程度ハト派的になっているかということだ。
 前回9月25~26日のFOMCの際に公表されたドットチャートでは、年内12月に利上げを決めた後、19年中に3回、20年に1回と計5回利上げを決める見通しが中心値になっていた。ところが、もとより市場ではそこまで利上げを織り込んでいなかったなかで、最近ではリスク回避から株価が急落しているのを背景に債券が買い進まれたことで、足元では19年中に1回利上げを決めるか否かといったところにまで利上げ見通しが後退している。
 とはいえ、景気指標からは住宅関連が完全に悪化しており、他の実績値も以前に比べると鈍化しているとはいえ、景況感関連は依然として好調な状態を維持している。ラエル・ブレイナードFRB理事やシカゴ連銀のチャールズ・エバンズ総裁はじめ、FOMC委員の間ではタカ派の論客の論調も以前と変わっていない。
 おそらく、来週19日に公表されるドットチャートでは市場が想定しているほどハト派的にシフトしないと思われ、行き過ぎた債券買い・株売りの反動が出てくるのではないか。


 明日は1日の米中首脳会談で中国からの関税引き上げが90日間猶予されることになりましたが、その本当の意味合いについて考察します。
 明後日からの2日間ではファーウェイの幹部が逮捕されましたが、その目的や意義について考えることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。