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輸出の落ち込みに見られる中国経済の成長継続の限界

ポイント
・中国の2月の貿易統計では輸出、輸入がともに前年同月比でマイナスの伸びになったが、このうち輸入の落ち込みについては内需の不振が続いていることを映すものであり、景気対策を見越して重厚長大産業系の国有大企業が生産を伸ばしていることがうかがわれる。
・輸出は前月が春節による駆け込みからプラスの伸びになったことから注目されたが、結果はその反動が出たことで20%もの大幅なマイナスの伸びになり、昨年11月以降の輸出の極端な落ち込みが続いていることが確認されたと言える。
・これはこれまで、共産党による指令統制体制下で外資から技術を盗用し、補助金を支給して国有企業に習得させ、“規模の経済”を駆使してグローバル競争において躍進してきたが、先進国へのキャッチアップを終えたことで大きな壁に直面していることを示唆するものだ。
・すなわち、中国はスターリン政権下で高成長を続けたものの、その後急速に成長が鈍化して停滞していったかつてのソ連と同じ道をたどっているのであり、現在の中国もソ連末期と同様に全要素生産性(TFP)がマイナスの伸びに転落している。


内需の不振が続いていることを映す輸入のマイナスの伸び

 先週後半に市況に大きな影響をもたらした最後の要因として、米雇用統計と同じ8日に発表された中国の貿易統計について見ていく。
 2月の中国の貿易統計では(当月分の統計が月末日からわずか8日後に発表されること自体、“インチキ”とはっきり言えるかはともかく、かなり不正確なものであることは論を待たないが、ここではそうしたことは考えないことにする)、輸出が前年同月比マイナス20.7%に、輸入も同マイナス5.2%とともにマイナスの伸びになった。
 このうち輸入がマイナスの伸びを続けているのは、内需の不振による経済活動の停滞が継続していることを映すものだ。実際、翌9日に発表された中国の2月の生産者物価指数(PPI)の前年同月比の伸びはマイナス0.1%と前月と変わらず、辛うじてマイナスへの転落が阻止されている状態だ(おそらく、本当はマイナス状態に転落していて生産者間の取引ベースではデフレ状態になっているにもかかわらず、政府がそれを隠して実態とは異なる数値を出しているのだろうが)。
 そこでは、今回の全国人民代表大会(全人代)でもそうした政策姿勢が打ち出されているように、政府が短期的な景気浮揚策として公共インフラ事業の積み増しに動く姿勢を見せているなかで、重厚長大産業系の国有大企業群が鉄鋼やセメント等の生産を強化している影響が出ているのだろう。むしろ、それほど素材産業が生産を大幅に増やしているにもかかわらず、後述するように輸出がまったく伸びていないどころか、むしろかなり落ち込んでいることの方が、構造的な観点からはさらに深刻な問題と言える。


中国の輸出が大幅なマイナス状態にあることが確認される

 一方で、輸出については昨年10月まで前年同月比で二ケタ(10%以上)の伸びを続けてきたが、11月に急激に鈍化し、12月にはマイナス4.4%と一気にマイナスの伸びに転落した。今年1月には同プラス9%と10%近いプラスの伸びになったが、そこには春節(旧正月)の長期休暇を控えた駆け込み的なものがかなり含まれていたとの指摘もあり、それだけに今回発表された2月の内容が注目されたものだ。その結果は前月に特殊要因でかさ上げされた反動が出たことも重なり、20%を超す大幅なマイナスの伸びになったが、これは中国経済の構造的な問題を考えるうえで極めて深刻な状況を迎えつつあると言わざるを得ないものだ。
 通常、経済活動が停滞して内需が弱い状態にある時には、海外経済の動向にもよるとはいえ輸出ドライブがかかることで輸出が伸びるものだが、今回は反対にそれが大きく落ち込んでいる。米国から貿易戦争を仕掛けられていることで中国からの輸入に10~25%の上乗せ関税をかけられている影響があることも考えられるが、対米収支を見る限り、中国側の報復関税や国内での米国産に対する消費拒絶ムードの影響で対米輸入が極端に落ち込んでいるものの、対米輸出は減っているとはいえ軽微なものに過ぎない。他のより大きな要因が作用することで中国の輸出が深刻な状態にあることは明らかである。


中国は外資から技術を盗用し国有大企業へ補助金支給で躍進

 ではその要因は何かというと、以前、当欄で指摘したように結論から先に言えば、中国はこれまで外資系企業から技術を盗用することで経済発展してきたが、その限界が露呈してきたということだ。
 中国では共産党政府が、外資が大国の市場に参入するために国有企業や政府の“息がかかった”民間企業と合弁を組むにあたり、その条件として技術を供与するように強要してきたが、言うまでもなくそうしたことは本来なら世界貿易機関(WTO)違反のはずだ。さらに先端産業や軍事技術に応用できる優れた技術については、米国を中心に就学や就職その他の名目で活発に産業スパイを送り込んで技術を習得させることで盗み出させてきた。そうして獲得した高度な技術を特定の国有企業に多額の補助金を支給する(もちろん、これも本当ならWTO違反である)ことで巨大企業ベースで身に付けさせ、そのうえで巨大化した企業がグローバル競争に打って出ることで、そうした“規模の経済”を如何なく発揮することで躍進してきた。
 いわばかつて、第二次世界大戦が終わり東西冷戦が始まる頃に、米国はソ連が国家ぐるみで国有企業に多額の補助金を支給して躍進していこうとしていたなかで、自国や同盟国の民間企業がそうした共産党政府の息のかかった国有企業とグローバル的に競争していくのは不公平だとして、ソ連やその衛星国を「関税と貿易に関する一般協定(ガット)体制」に加盟させるのを認めなかったものだ。
 現在、ドナルド・トランプ米政権が中国側にハイテク強国化政策「中国製造2025」の見直しや技術強要の禁止、知的財産権の保護、国有企業への補助金支給の停止といった一連の構造改革を要求しているのは、本当ならWTOに違反しているものであり、当時のソ連に対する批判とほぼ同じであることに気づくものだ(ただより本当のことを言えば、ソ連に対して宇宙開発も含めた高度な軍事技術を密かに供与していたのはロックフェラー財閥の3代目の総帥として実質的にクレムリンを管理していたデイヴィッド・ロックフェラーだった。現在の中国に対しても、米外交問題評議会(CFR)系を率いることでバラク・オバマ前政権で主導権を握っていた当時のジョセフ・バイデン副大統領が、これまで技術が流出していたのを意図的に黙認して中国が強大国化していくのを放任していたのだが、そうしたことはここでは考えないことにする)。


資本主義的な発展が難しい中国の政治制度や社会の土壌

 共産党政府がすべてを指示する統治体制では、党から派遣されている経営者も従業員も“親方日の丸”になってしまうのは当然であり、特に最近では習近平国家主席が強権統治体制を強めているのでなおさらである。こうした状況では日本が得意とする技術革新に向けた競争力も、ましてや米国が得意とするような各個人の創造性の発揮を必要とする知的産業が発展するはずがない。発展させるには最低限度、独裁体制を放棄して政治的な民主制度を確立してそうした体制を構成する成員に思想や宗教、学問その他の自由を与え、自由な企業間取引ができるような環境にしなければならない。
 共産党一党独裁政体制下でそうしたことが不可能であるのは言うまでもないが、さらにそれだけでなく、中国古来から培われてきた倫理観念に代えて、市場経済を有効に機能させるような「資本主義の精神」を一般庶民の間で植え付ける必要がある。政治的な民主主義と経済的な資本主義は“車の両輪”とでも言うべきものであり、内陸部の農民がいまだに中世封建時代の「農奴」のような状態に置かれている中国社会においては、そうしたことがあまりに非現実的なことであるかは“火を見るより明らか”である。
 リーマン・ショックの直後に米国が凋落したように見えた一方で、4兆元の景気対策が打ち出されたことでいち早く中国経済が復活したのを見て、間もなく覇権が米国から中国に移るなどと“馬鹿げた”ことを唱えた“ろくでもない”識者がいた。そうした人たちがいかに無能であり、またそれゆえに“迷信”を巷間に植え付けることで経済界や社会に大きな弊害をもたらしてきたことが、今では多くの人たちの間で一目瞭然になっている。


指令統制経済ではキャッチアップが終わると罠に嵌ることに

 指令統制経済体制下で海外から技術を盗み、国有大企業に修得させて“規模の経済”を駆使して躍進していく発展形態は、先進国の経済力にキャッチアップしていく過程では非常に有効に機能する。先進国と同じ自由な市場経済システムを機能させようとすれば、所詮、産業競争力で優位な地位にある先進国が競争で勝利することが自明なのであり、そうしたことは19世紀に英国が覇権を確立したなかで、後進国だったドイツでフリードリヒ・リストが「幼稚産業保護論」を唱えた指摘を待つまでもないことだ。
 しかしキャッチアップが達成されてしまい、国内の公共インフラ事業への投資もかなりの部分において出尽くしてしまうと、もとより自らより高度な製品や部品を開発し製造するだけの技術革新力がなく、新興産業を興す想像力もなければ経済発展が大きな壁に阻まれざるを得ない。これはすなわち、経済専門家が「中進国の罠」と呼ぶ現象である。

 かつてのソ連にしても、ヨシフ・スターリン政権下で西側資本主義諸国が羨むような高成長を続けたものの、ニキータ・フルシチョフ政権に移ると急速に経済成長が鈍化してしまい、レオニード・ブレジネフ政権下で「停滞の時代」を迎え、ミハイル・ゴルバチョフ政権がペレストロイカによる改革を掲げたものの、崩壊への道を防ぐことが出来なかったものだ。
 スターリン政権下で高成長が続いたのを“真に受けて”、資本主義諸国では血気盛んな若者たちが革命を志したが、そうした感覚は最近、中国の発展ぶりを賛美していた識者とつながるのだろう。最近の中国の経済成長の構図を分析した学者によれば、技術力の進歩を図る指標とされる全要素生産性(TFP)がマイナスの伸びになっているといった報告が出ているが、これはまさにソ連末期の状況に酷似しているものだ。


 週末の明日もこの続きを掲載します。
 明日はこうした中国経済の現状を踏まえたうえで、足元で開催されている全人代で打ち出されようとしている政策の弊害について簡単に指摘します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。