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大物共青団系の汚職問題に見られる熾烈な権力闘争劇

ポイント
・今回、汚職容疑で陥れられそうになった最高人民法院の周強院長は共青団系だが出世コースからはずされた人物だ。習近平派としては、現職の李克強首相や胡錦涛前国家主席が守っている胡春華副首相を陥れるのが困難なことで目を就けられたと言える。
・通常、共産党高官の汚職腐敗問題は規律検査委の管轄だが、今回の審議ではそれを含む五つの部門の合同チームが行った。しかも、トップの書記が政治局常務委員である規律検査委ではなく、トップが格下の政治局員に過ぎない政法委が主導権を握ったのも異例である。
・現在の政法委の郭声琨書記は曽慶紅元国家祝主席の親戚筋であるだけに典型的な江沢民派だが、周永康元書記が汚職事件で失脚したことで今では格下の政治局員に格下げされている。ただ、今では中央政界で政治局員以上の江沢民派はこの郭書記だけになった。
・現在の規律検査委で政治局常務委員の趙楽際書記は習近平派として引き上げられたが、かなり西方の内陸部の出身であるだけに中央政界にはあまり人脈がなく、前書記である王岐山国家副主席が後押しして汚職問題を摘発していくことになっていた。
・今回、習近平派が周強院長を陥れるのに失敗したのは、習近平主席の権威が動揺しており、江沢民派が共青団出身の李克強首相を押し立てて抵抗しているのを映すものだ。



共青団出身の大物を陥れようとした習近平派

 今回、汚職問題で陥れられそうになったこの最高人民法院の周強院長は共産主義青年団(共青団)出身として、この系列では胡錦涛前国家主席、李克強現首相に続く世代であり、同じくこの系列の出身である胡春華副首相の1歳年上である。
 かつて、胡錦涛前主席の次のこの系列出身の世代として李克強現首相と李源潮前国家副主席が争い、現首相が勝利して習近平現国家主席とともに政治局常務委員に出世した。それと同じように、この両者も李現首相の次の世代の後継争いをした結果、胡春華副首相が勝利して、江沢民派の“若手のホープ”とされた孫政才元重慶市党委員会書記とともに政治局員に出世したものだ。敗れた周強院長は政治局員になれずに現職に就いたことで出世コースからはずれてしまったが、それでもこのポストは格式としては閣僚級を上回り、政治局員と同等とされている。
 今回、習近平派が共青団出身の周強院長を陥れようとしたのは、江沢民派をはじめ抵抗勢力が李克強首相を押し立てて抵抗しているなかで、現職の首相を陥れることは非常に困難であり、胡春華副首相も胡錦涛前主席が守っていて容易に手を出せないなかで“目をつけられた”ものだ。それにより、間接的に李現首相や、さらには胡前主席にまで打撃を与えようと画策して仕組まれたものだ。
 ちなみに、この件を告発したのは崔永元氏という人物であり、かつては国営中央テレビの司会者だったものの今では表向き民間人を装いながら、実際には習近平主席や王岐山国家副主席の意向を受けて中央規律検査委員会(以下、規律検査委)の“秘密捜査官”のような役割を担っている。大物美人女優として世界的に有名な范冰冰(ファン・ビンビン)氏を巨額脱税の件で告発したのもこの人物だ。


規律検査委より格下の政法委が主導権を握った背景とは?

 興味深いのは、通常ではこうした汚職問題では規律検査委が担当するものだが、今回はそれに加えて中央政法委員会(以下、政法委)、国家観察委員会、最高人民検察院、公安省による合同調査チームが編成されたことであり、これは異例のことである。
 しかも、この五つの部門の中で最も格式が高いのがトップの書記が政治局常務委員である規律検査委であり、その次に位置するのがトップの書記が政治局員である政法委だ。だとすれば、本来なら最も格式が高い規律検査委が他の部門を統括するのが最も自然な形であるはずだが、今回は2番目の政法委主導で審議が進んだことも注目される。
 ちなみに、政法委書記も以前には政治局常務委員の地位にあったが、周永康元書記が習近平主席の就任に反対してクーデターを起こそうとして失敗し、汚職問題で陥れられて以来、政治局員に格下げされた経緯がある。ただし、格下げの表向きの理由はクーデターを引き起こすほどの強大な権限を政法委書記に握らせないこととされていたが、実際には習主席がそれを理由に、後述するように江沢民派の“牙城”とでもいうべきポストの権限の弱体化を図ったことにある。


権力闘争に左右される規律検査委と政法委の主導権争い

 もっとも、規律検査委と政法委のどちらの勢力が強いかは、その時々の中南海を巡る権力闘争と密接な関係がある。
 例えば、胡錦涛主席の権威が当時は「上海閥」と呼ばれていた江沢民派より優位な時期では、その学友として良好な関係にあった呉官正規律委書記が主導権を握っていた。江沢民元主席や曽慶紅元国家副主席が自分たちの勢力の後継者に育てようとしていた陳良宇上海市党委員会書記を汚職容疑で陥れた際に呉書記は重要な役割を担ったが、この時に陳書記を裏切って傍観したのが、後に習近平現主席を政治局常務委員に押し上げ、しかも胡主席の後輩の共青団出身の李克強現首相より序列上位に就けることで、次期国家主席、共産党総書記への就任を確実なものにするのに重要な役割を担った張徳江広東省党委員会書記(のちに全人代委員長、いずれも当時)だった。
 李克強首相を次期国家主席の地位に就けることに失敗し、呉官正書記の後任にも江沢民派の賀国強規律検査委書記が就いたことで胡主席の権威が低下すると、江沢民派の大物で石油利権を握っていた周永康書記(いずれも当時)の権威が高まるとともに政法委が主導権を握ったものだ。


習近平に引き上げられた規律検査委書記と江沢民派の牙城の政法委書記

 規律検査委では現在では趙楽際書記がトップに就いており、慣例により共産党では政治局常務委員に抜擢されている。
 この人物はかなり西方の内陸である青海省出身で陝西省に地盤があり、その言葉には“西方訛り”があって江沢民派や都市部のエリート官僚出身者からは“田舎者扱い”されている。以前には共青団にも所属していたことがあったがそこで出世することは出来ず、すぐに地方政府の勤務に回されている。父親か祖父が人民解放軍の将軍だった趙寿山であり、父親の習仲勲元副首相の親友だったことから子息の習近平主席が中央政界に引き上げて現在の地位に就けただけに、間違いなく習近平派と言える。ただ、この人物は内陸部出身であるだけに“清廉”なところはあるが、中央政界ではそれほど人脈がないだけに、規律検査委を率いるにあたり最初から前書記である王岐山副主席がサポートすることが前提になっていたわけだ。
 また規律検査委で2番目の地位にある楊暁渡副書記(政治局員)は、かつては江沢民派だったが、今では習近平派に鞍替えした人物である。
 これに対し、現在の政法委のトップである郭声琨書記は曽慶紅元副主席の親戚筋に当たるだけに、典型的な江沢民派である。前任者が周永康前書記だったように、政治局員に格下げされたとはいえ、今でもこのポストは江沢民派の牙城である。王岐山副主席(当時は規律検査委書記)が江沢民派の若手のホープだった孫政才元重慶市党委書記を陥れ、さらに習近平主席が17年10月の共産党大会で同派を幹部人事から締め出していったことで、今では同派で政治局員以上の地位に就いているのはこの郭書記だけになってしまった。

 今回の共青団出身の最高人民法院の周強院長の汚職問題を巡る審議では、王岐山副主席に後押しされている政治局常務委員の趙楽際規律検査委書記が影響力を行使することが出来ず、政治局員に過ぎないはずの郭声琨政法委書記が主導権を握ることで、習近平派としては有罪にして失脚させることが出来なかった。これはまさに、江沢民派が共青団出身の李克強首相を押し立てて習近平主席に抵抗している現在の中国の政治権力闘争の実情を映し出しているものに他ならない。


 週末の明日もこの続きを掲載します。
 明日はこれまで述べてきたことを踏まえて、現状の米中貿易戦争に戻りながらその背後事情を解明していきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。