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FRBの利下げ推進で日独は内需浮揚への構造改革を求められる

ポイント
・FRBが利下げを模索する姿勢に転じたのを受けてトランプ政権は多くの新興国が金融緩和策に動いているのを容認しているが、貿易摩擦を仕掛けているEUや中国に対してはそれを認めず、日銀にも水面下で追加緩和策に動かないように要請している。
・そうなると、輸出依存度が高いドイツ経済は深刻な打撃を受けることになり、EUやユーロ圏も同様である。米国はNATOからも離脱しようとしており、ロシアの軍事的脅威を前にして独仏両国は軍事負の増大に向けて財政支出を大幅に拡大せざるを得なくなる。
・日本はドイツほど大きな衝撃を受けるわけではないが、輸出大企業が優遇されてきただけに、それなりに大きな衝撃を受けるはずだ。大企業に内部留保を取り崩させて家計にシフトする必要があり、安倍政権に構造改革を促すために米国が「外圧」を提供している。
・安倍政権は円高対策として日銀に追加緩和の検討を要請しているが、実際にはそれが困難であることを承知のうえで求めているのであり、それにより財政支出が必要な状況であることを浮き彫りにして財務官僚の勢力を抑え込もうとしている。



米国は貿易摩擦を仕掛けている主要国には追加金融緩和策を認めない

(前回の続き)ただここで指摘すべきことは、ドナルド・トランプ政権やその背後の権力者層はそれほど重要性がない新興国については金融緩和策の推進を容認しても、貿易摩擦を仕掛けている主要国についてはそれを認めないことだ。先週18日にマリオ・ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が状況により量的緩和策の再拡充をはじめ新たな緩和策を模索する姿勢を示すと、すかさずトランプ大統領がユーロ安・ドル高がもたらされてしまい、米国としては「不公平」だとしてこれを“攻撃”している通りである。
 それは中国に対しても同様であり、「中国が約束を破った」(トランプ大統領)ことで正式な合意が出来なかったものの、協議での合意事項には為替条項が挿入される予定になっていたものだ。人民銀行が過度な緩和策や流動性供給策を推進すると人民元相場に下げ圧力が強まってしまい、それを吸収するために元買い・ドル売り介入を続ければ外貨準備が枯渇して危機的な状況に陥ってしまうため、そうした政策は実行不可能なのである。
 ただし、トランプ大統領は自国・地域通貨を意図的に低水準に誘導することで米国から巨額な貿易赤字をもたらしているとして中国と欧州連合(EU)を名指しで批判しているが、そこから日本は抜け落ちている。日本銀行(日銀)が「異次元」と銘打った“キチガイじみた”超大規模な金融緩和策を推進しているのは、表向きデフレ圧力に対処するためと言いながら、本当は大企業の経営者群で構成されている財界の意向に沿って円高を阻止するためであるのは明白であるにもかかわらず、表面的にはそれが回避されている。
 しかし、それはあくまでもトランプ大統領と安倍晋三首相の個人的な関係から表立った批判が回避されているに過ぎず、水面下では日銀には米国から追加緩和に動かないように要請――と言うより圧力をかけてきているという。


輸出依存度が高いドイツは大幅な財政支出増大が必要に

 米連邦準備理事会(FRB)が利下げを推進していく一方でこれら主要国・地域の中央銀行がさらなる金融緩和策を推進していくことを封じられれば、米ドル相場とのペッグ制が維持されている人民元を除き、対ユーロや対円でドル安圧力が強まることになる。それは特に極端に輸出主導型の経済構造になっているドイツ経済を直撃することになり、またEUやユーロ圏も中核国が構造的に打撃を受けることで深刻な事態に陥りかねない。
 最近、10月末に任期を迎えるドラギ総裁の後任の有力候補であるドイツ連銀(ブンデスバンク)のイェンス・ワイトマン総裁の言動がハト派的になってきたのも、財政基盤が脆弱な南欧諸国の支持を集める目的があるだけでなく、“お膝元”のドイツ経済が不況にあえいでいるなかでユーロ高が進むことを恐れているからだ。しかし、米国からそれが封じられれば、足元の経済苦境を打開するにはドイツ政府が健全財政政策を放棄して財政支出を大幅に増大させる以外に方策がなくなってくる。トランプ政権がEUに対して貿易摩擦を仕掛けている本当の意義もそこにある。
 安全保障面でも、トランプ政権は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に「公平」に防衛費を大幅に増やすように求めており、さらに将来的にはそこから離脱して欧州に駐留している米軍も撤退させようとしている。それによりロシアの軍事的脅威が増すなかで、ドイツ政府はフランス政府とともに否が応でも財政支出を大幅に拡大せざるを得なくなることになる。


日本では財界に内部留保を取り崩させて内需浮揚が必要に

 一方で、日本は少なくともドイツに比べると大きな打撃を被るわけではないが、それでもこれまでは輸出依存が大きい大企業が優遇されてきただけに、やはり大きな衝撃を受けざるを得ない。
 そもそも、日本経済が慢性的にデフレ状態に陥っていたのは大企業が高水準の利益を計上しても、そのかなりの部分が内部留保の蓄積に回って家計に還元されず、内需が浮揚しなかったからだ。トランプ政権が日本に対しても貿易交渉を要求して事実上の自動車の輸出数量規制を要求しているのも、また多国籍企業の生産拠点が集積している中国からの関税を抜本的に引き上げてメキシコからの輸入も抑制しているのも、意図的に輸出大企業に打撃を与えることで内需主導経済への転換に向けて構造改革の推進を促しているからにほかならない。
 安倍政権にとっては財界は有力な支持基盤であるだけにどうしてもそうした改革を推進することが出来なかったことから、トランプ政権が「外圧」を提供することでその推進を後押ししようとしているものだ。こうしたことはこれまで、当欄で述べてきた通りである。


安倍首相は追加緩和策が困難なのを承知で日銀に要求している

 さしあたり、安倍首相率いる官邸はFRBが利下げを推進する姿勢を強めてきたのを受けて、円高圧力を緩和させるために黒田東彦総裁率いる日銀に追加緩和策に取り組むように求めている。実際、安倍首相の意向を受けて、金融政策決定会合での投票では原田泰、片岡剛志両審議委員が追加緩和策を求めて現状維持の提案に反対票を投じている通りだ。
 ところが、実際には日銀としては追加緩和策に取り組もうとしても、もはや国債の購入量を増やすことが“物理的”に困難である。銀行が日銀に預けている当座預金を対象とする付利金利のマイナス幅を拡大させればよけいに地方銀行を中心に銀行に打撃を与えることになるので、これも採り得る政策手段にはならない。
 いわば、安倍首相は追加緩和策が出来ないのを承知のうえで日銀にこうした要求をしているのであり、それにより財務官僚の抵抗をはねつけて財政面での景気浮揚策に持っていこうとしている――いうまでもなく、当面は10月に予定されている消費増税の再延期の行方が最大の焦点になる。年金だけだと30年間で夫婦で老後資金が2,000万円不足するといった金融庁の報告書が、これまでの政府の見解に反するとして麻生太郎副首相兼財務相が受け取らなかったことについて、財務相が野党から批判を浴びている。その批判が財務官僚にまで拡大してきたのも、消費増税をはじめとする財政支出の拡大をにらんでのものであることは容易に推測できる。
 おそらく、これから内部留保の取り崩しに反対している財界の有力な構成員も陥れられていくのだろう。


 週末の明日もこの続きを掲載します。
 明日はより大局的な観点からFRBが利下げ路線に転じた影響について考察することにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。