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長期金利上昇・株価急落の背後にあるもの

ポイント
・9日の株価急落の真因はFRBの利上げ観測ではなく、日銀が逆ツイスト・オペ政策を採用するとの観測から長期金利が上昇したことによるところが大きい。
・ジャクソンホールでのイエレン議長の講演を挟んでタカ派発言が相次ぎ、その後ハト派の発言が出て利上げ見送りを決めるのはFRB執行部のシナリオ通りの公算が大きい。
・今回のFOMC委員の相次ぐタカ派的な発言は、大統領選挙絡みによる要因だけでなく、G20サミットで中国に構造改革の受け入れを迫る目的もあったようだ。


 9日に米株式市場で始まった株価急落の動きは、週明け12日に11月8日の大統領選挙を控えてヒラリー・クリントン前国務長官の健康不安からアジア、欧州でそれが連鎖した。
 しかし、米国市場に戻るとラエル・ブレイナード米連邦準備理事会(FRB)理事の発言によりFRBの今月の利上げ観測が遠のいたことから、株価が急反発してひとまず急落の流れは一服した。

 もっとも、これまで当欄で述べているように、この動きはシナリオ通りといえる。8月26日のジャネット・イエレン議長の米ジャクソンホールでの講演を挟んで、連邦公開市場委員会(FOMC)委員が相次いでタカ派的な発言を繰り広げ、FOMCが近づくとハト派的な発言を出して実際に利上げを見送るシナリオが事前に組まれていたといえる。
 ただ、米政策当局の裏側にいる権力者層は10月以降、金融市場を不安定化させようとしているようなので、FRB執行部の思惑通りに利上げ見送りで再び株高が進むか、予断を許さない面がある。


長期金利上昇や株価急落の真因は別にある

 そのためにも、先週末9日の株価急落について少し検証しておく必要があるだろう。
 この時、ドル高とともに特に株価が急落したことについては、表向きはボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁の発言とされているが、事情は少し違うようだ。その後にダニエル・タルーロ理事がハト派的なことを述べているが、これについては市場は特に反応しておらず、ローゼングレン総裁の発言だけで動いたと考えるにはやや無理がある。
 それ以上に、この日は長期金利が上昇した一方で、FRBの金融政策の動向をより大きく反映するはずの短期金利はそれほど上がっていないのは不自然である。この日の長期金利の上昇や株価急落は、それ以上にそれとは異なる要因でもたらされたと見るべきだろう。

 米長期金利は前日の8日から目立って上昇しており、2日間で10年債利回りベースで0.13%以上も上がって1.6720%に達した。この2日間の長期金利の上昇の最大の要因は、8日に日本銀行(日銀)の中曽宏副総裁の講演によるところが大きかったようだ。
 中曽副総裁はそこで、マイナス金利政策に副作用があることを認めたうえで、その政策を「“深堀り”することはコストを考えたうえでもなお必要とすることは十分にあり得る」と発言した。さらにそれに加えて、20~21日の金融政策決定会合で「現在の政策に修正する必要があるかどうか、それが必要な場合にはどのような修正が必要かを判断することになる」とも述べた。
 こうした発言が、主要先進国での長期金利の上昇をもたらす大きな要因になったようだ。


金融機関への支援のために逆ツイスト・オペ導入も

 それはどうしてかというと、20~21日の会合ではマイナス金利政策を深堀りして継続していくにあたり、金融機関の収益に打撃を与えないように配慮するために「逆ツイスト・オペ」のような政策が採用されるとの見方が強まったからだ。
 以前、FRBは短期債を売って長期債を買い入れる「オペレーション・ツイスト(ツイスト・オペ)」政策を続けたことがあった。そうすることでFRBが保有する資産総額を増やさずに長期金利の上昇を抑え込み、イールドカーブのフラット(平坦)化を狙ったものだ。
 今、日銀が導入を検討しているのはその反対の図式であり、長期債を売って短期債を買い入れるというものだ。そうすることで、長短金利差を拡大させて金融機関が利ザヤを稼げるようにしながら、マイナス金利政策をさらに推進していこうというものだ。

 とはいえ、長期金利に上昇圧力を強めることを意図した政策を打ち出せば、債券相場や株価には強力な下げ圧力に見舞われる恐れがある。
 これまで、世界的に強力な量的緩和策が推進されていたことで巨大な流動性が生じており、行き場のない資金が日米独の“経済3強国”の国債や米国株に向かっていた。そうしたなかで長期金利に上昇圧力を強める政策を打ち出せば、資金が一気に逆流して市場から流出する事態を引き起こしかねないからだ。


利上げ見送りの決定に向けてハト派の出番に

 これまで当欄で述べてきたように、スタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っているFRB執行部は、事前に早期利上げをちらつかせるタカ派的な姿勢を示して割高な株価を調整させたうえで、20~21日のFOMCでは利上げを決めないことで、10月中にかけて株高傾向が続くことを演出しようとしているようだ。そうすることで、11月8日の大統領選挙で民主党のクリントン前国務長官の当選を後押ししようというものだ。
 そうした意味では、これまではFOMC関係者の発言がほぼタカ派色で占められていたのが、9日にはハト派的なタルーロ理事が発言したのに続き、週明け12日には、同理事以上にハト派の論客として知られるラエル・ブレイナード理事の講演が急に決まったのも、冒頭で述べたようにシナリオ通りの動きである。

 とりあえず、13日にはそのブレイナード理事の発言から利上げ観測が後退したことで、ひとまず株安の動きが一服している。とはいえ、大統領選挙でドナルド・トランプ候補を支援している勢力は、10月中に株価を急落させようと画策しているとの噂がある。実際、米権力者層は以前には次期大統領にクリントン前長官を就けるつもりでいたようだが、最近ではトランプ候補に乗り換えたとも聞こえてくる。
 気になるのは、米株価はダウで1万8,000ドルを割るとチャートの形状がかなり悪くなることだ。ダウは今年6月末までその水準で上値を抑えられていたのが、7月に入りこれを超えたことで史上最高値を更新していった経緯がある。これを割り込んだ水準で定着すると、7~8月の上昇が“ダマシ”になってしまうので、天井を打ったことが確認されてかなり大きく下げていく公算が高まってしまう。
 そうした意味では、FRB執行部が過熱した状態の緩和を意図して短期的な調整局面を迎えることを望んでいても、それも“ほどほど”にしないと株価を制御できなくなる恐れがある。いうまでもなく、そうした状況になれば共和党のトランプ候補には有利な状況になる。


開催国だけによけいに大きな批判にさらされる

 ところで、8月26日の米ワイオミング州ジャクソンホールでのイエレンFRB議長の講演を挟んでタカ派的な発言が相次いだ理由としては、大統領選挙絡みで株価の調整を意図したものである以外に、もう一つ重要なことがあったようだ。
 それは、今月4~5日に中国・杭州で開催された主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で、米国側が中国側に圧力を強めるにあたり、その手段として利用された面があったということだ。
 結論から先にいえば、今回のサミットでは、水面下では米中間に日本も巻き込んだ3カ国の間で重大な取り決め事の決定に向けて、激しい駆け引きや激論が闘わされていたようだ。

 今回のG20サミットの首脳宣言では、世界経済成長には下方リスクがあることが指摘されて、各国の事情に応じて金融政策や財政政策、構造政策その他「あらゆる政策を総動員する」と謳われたのは、これまでのG20会議の流れを踏襲したものだ。
 ただその中でも、世界経済に危機的な状況を引き起こす恐れがあるところとして欧州の銀行不安や中国不安が再燃することが危惧されているが、特に中国は今回の会議では開催国であったことが重要である。通常、開催国になると議事の進行役を担えるので有利なはずだが、今回の中国は危機の震源地になりかねないとして世界各国から批判を受けやすい状況にあったため、よけいに大きな責任を負わされてしまった。特に中国は“面子”を重んじる傾向が強いことが、それに拍車をかけたのはいうまでもないことだ。


米利上げをちらつかせて中国を攻撃

 今回の会議に先立って行われた米中首脳会談では、両大国は気候変動枠組条約締約国会議(パリ条約)を同時に批准することが決まったが、それ以外は平行線をたどったとされている。例えば、中国側は在韓米軍に配備したミサイル迎撃システム(THAAD)に反対した一方で、米国側は南シナ海や人権の問題を採り上げ、また中国側に国有企業改革や人民元の問題も提起したが、投資協定の件も含めて合意できなかった。
 ただ、そうした表面的な問題だけでなく、水面下では当面は鉄鋼業の過剰生産能力の削減に重点的に取り組むのをはじめとする国有企業改革や国有銀行の不良債権処理、市場経済システムの導入に向けて、米国側が中国側に激しい要求を突き付けていた。

 そうした要求の受け入れを迫るにあたり、米国側はFRBの早期利上げの決定に向けた姿勢をちらつかせることで中国側を脅したわけだ。
 今年初の1月6日には、フィッシャーFRB副議長が「今年は4回利上げを決めるとの見方は妥当」と発言したことが、米系投機筋による人民元売りや中国株売りに拍車をかけて中国不安を一段と強める効果をもたらした。それだけに、こうしたFRBの金融政策による“脅し”はかなりの効果を発揮したようだ。

 実際、今回のG20サミットでの首脳宣言では前記の“通り一辺倒”の文言だけでなく、開催国としての立場をも前提とする面子の問題も絡んで、中国側は抜本的な構造改革に取り組むことが別箇に明記されている。そこでは、当面の大きな課題として鉄鋼業の過剰生産能力の削減に焦点が集まりがちだが、実際には他の分野にもまたがる構造改革全般に及んでいることに留意する必要がある。
 今回の首脳会合では、表面的には習近平国家主席は大国のリーダーとして見事に振る舞ったとして誇っているようだが、実際には水面下では米国を中心とする中国包囲網の前に“防戦一方”だったようだ。
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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。