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米中不平等交渉をもたらした圧倒的な軍事力・経済力格差

ポイント
・今回の米中貿易交渉の第一段階での合意では、中国側は2年間で対米輸入を2,000億ドル増やすことになったが、構造改革については頑として拒否した。このため、米国側は直近の1,600億ドル分の制裁関税の税率を半減させることしか受け入れなかった。
・中国側はトランプ大統領が来年の大統領選挙を控えて目に見える成果を出す必要に迫られている“弱み”をついて構造改革の先送りに成功したが、非現実的な対米輸入の激増措置には米国側の“罠”が仕掛けられている。
・そもそも、今回の米中貿易交渉では米国側が対米輸入の増大や構造改革を求めているのに対し、中国側が要求しているものが何もないなど極端に一方向的な性格が強く、「不平等条約」ならぬ「不平等交渉」とでのいい得るものだ。
・その背景には、構造的な観点では本来的に米中戦争では圧倒的に米国側が有利な状況にあるからであり、それは一つにはエネルギー供給面で中東湾岸産油国が親米国で占められており、世界中のシーレーンも米軍が握っていることがある。
・もう一つは、中国では人民元が国内的にも法定通貨として信用されておらず、それを維持するために基軸通貨である米ドルに連動させ続ける宿命にあるなかで、金融政策がFRBに“人質に取られている”ことがある。米国はその気になれば中国を“殺す”ことができる。



大きな影響を及ぼす米中貿易協議での第一段階の合意

 先週は15日に米国側が中国向け追加関税措置の発動の期限が迫るなかで、13日に両国が第一段階の合意に達したことが金融市況に大きな影響をもたらした。
 また、同日に行われた英国の総選挙では保守党が勝ったのは予想通りだったが、1987年のマーガレット・サッチャー政権以来の大勝利となった。それにより、まだ欧州連合(EU)側との間で離脱後の経済・通商関係を巡る交渉が不透明であるとはいえ、少なくともボリス・ジョンソン首相主導で1月末にEUを離脱するのが確実となり、これまで懸念されていた「合意なき離脱(ハード・ブレグジット)」に陥る心配がなくなった。
 またそれ以外にも、先週は市況に大きな影響を与える要因として、10~11日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が、12日にはクリスティーヌ・ラガルド総裁が就任して初めてとなる欧州中央銀行(ECB)理事会も開催された。
 これらのうちの多くは取り上げるわけにいかず、今後、機会があれば言及することにして、今週は最も大きな影響を及ぼす要因として米中貿易協議における第一段階での合意について見ていくことにする。

 今回の第一段階の合意では、中国側は対米輸入を2年間で2,000億ドル増やすことや、人民元安誘導を禁止すること、知的財産権の保護を強化して取り締まりを厳格化すること、外資系資本に対する技術移転の強要を禁止すること、金融サービス市場を開放して米国を中心に外国の金融資本が中国市場に容易に参入できるようにし、国有企業や国有銀行に対する資本参加や買収も容認することになった。これに対し、米国側は15日に予定していた新たな関税の発動を見送り、また9月に発動した1,600億ドル分の関税についてもその税率を15%から7.5%に引き下げることになった。


中国側はトランプ大統領の弱みにつけ込んだがそこには罠が潜んでいる

 米国側はそれ以外にも、国有企業への補助金支給を停止させることで国有企業改革を推進させ、また国家主導の経済発展戦略を抜本的に転換するように求めていたが、これは中国側が頑として拒絶したことで、第二段階での合意事項に向けて先送りされた。国有企業改革に本格的に踏み込むと、なにしろ国有銀行の潜在的な不良債権が本当は実に5割程度に上っているほど深刻な状態にあるだけに、それこそ中国経済が崩壊しかねない。国家主導の発展戦略に手を付ければ共産党一党独裁体制そのものが機能しなくなるだけに、中国側がこれを拒否して当然である。
 それに対し、中国側は経済状態が失速気味になっているほどに悪化しているなかで、昨年7月6日に第1弾となる関税が発動されて以降、3,600億ドルに及ぶ制裁関税を全面的に撤廃するように求めていたが、米国側が応じたのはごく最近、追加措置を打ち出した1,600億ドル分を半減しただけだった。米国側としてはまだ中国側が肝心の国有企業への補助金支給の停止や国家主導の産業政策の変更に応じない姿勢を示しているだけに、第二段階での交渉に向けて“手段”を残しておく必要があるのだから当然である。しかも、そもそも両国間での関税措置の“発動合戦”による貿易戦争では圧倒的に米国側に有利な状況にあり、中国側が足元を見られている状態にあるだけに、よけいに当然の動きといえるものだ。
 ただし、米国側ではドナルド・トランプ大統領が来年には大統領選挙を控えているなかで、有権者に訴えるために早急に目に見える成果を出す必要があるという“弱み”があり、そこを今回、中国側がついたのも確かである。中国側は2年間で対米輸入を2,000億ドル増やすなどと非現実的な合意をすることでトランプ大統領に“人参(ニンジン)をぶら下げて”おいて、肝心の構造改革については先送りさせることに成功した。そのため、多くの識者は米国が譲歩したといったといった論評をしているようだが、米国側も“馬鹿”ではなく、そこには中国経済の脆弱性に着目した“罠”が潜んでいる。明日以降、その罠について述べることにする。


米中貿易交渉は一方向に偏った不平等交渉

 さしあたり、今回はまずこの貿易交渉が米中経済の構造上、本来的には米国側が圧倒的に有利な環境にあったことをその大前提として指摘しておく。これまで当欄で述べてきたことを、ここでもう一度指摘する。
 まず指摘できるのは、この米中貿易交渉はあまりに一方向に偏った交渉であるという点でかなり特異なものであることだ。この交渉では米国側が各種の構造改革や輸入の増大を求めているのに対し、中国側が米国側に要求しているものはまったくない。例えていえば「不平等条約」ならぬ「不平等交渉」とでもいい得るものだ。
 どうしてこうした極端に不平等のような状態になっているかというと、米国はその気になれば中国を“殺す”ことができるほど両国間の経済力の格差が大きな状態にあるからだ。これは、世界の“エネルギー供給基地”とでもいうべきサウジアラビアを中心とする中東湾岸諸国が親米国で占められており、世界中のエネルギー供給路(シーレーン)を世界最強の軍事力を誇る米軍が押さえているなかで、中国向けの原油や天然ガスといったエネルギー供給を遮断すれば、備蓄分を使い尽くすと中国そのものが劇的に崩壊するといったことだけではない。


中国は金融政策をFRBの“人質に取られている”

 構造的に中国経済が脆弱性を抱えており、対米戦争を行ううえで圧倒的不利な要因としてもう一つ指摘できるのは、中国は国内的にも人民元が十分に法定通貨(リーガルテンダー)として信用されておらず、現代の基軸通貨である米ドルにその価値を連動させることでそれを保持している状態にあるため、人民銀行の金融政策が米連邦準備理事会(FRB)の“人質に取られた”状態にあることだ。実際、13年春期にベン・バーナンキFRB議長(当時)が量的緩和策の縮小(テーパリング)に言及して以来、中国で信用不安が高まるようになったのはそのためである。
 今回の貿易戦争での影響面を考えても、米国側では中国からの輸入が激減しても東南アジアはじめ他の供給国からの調達が代替可能であるのに対し、米国からの輸入が減った中国では大きな影響が出ている。中国では直近11月の物価統計において、生産者物価指数(PPI)の前年同月比の伸びが経済状態の悪化からマイナス1.4%に落ち込んでいるのに対し、消費者物価指数(CPI)は豚コレラの蔓延による豚の飼養頭数の激減から食料価格が高騰していることもあり、それが4.5%に達していることに端的に表れている。
 そのあたり、日本政府が脆弱な韓国経済の足元を見て輸入規制強化措置を打ち出しているのと同じようなものといえるだろう。これはすなわち、トランプ大統領と安倍晋三首相の背後の勢力が通じており、同じ戦略で動いていることを示唆するものだ。


 明日もこの続きを掲載します。
 明日は本来的に米国側が圧倒的に有利な状況にあったなかで、中国の国家主権をないがしろにするようなことまで要求していたことについて述べます。
 また、今回は通常より1日多く、21日の土曜日まで掲載します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。