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現実を前に極端に弱気見通しになったトランプ大統領の真意は?

ポイント
・今回の米雇用統計では12日の週を含む週間新規失業保険申請件数がそれほど多くなかったにもかかわらず、非農業部門の雇用者数のマイナス幅が極めて大きかったのは、将来的にさらに大きく落ち込むのを先取りしている可能性がある。
・トランプ米大統領は新型コロナについてもとより温暖になる4月には終息するとの楽観的な見通しを示していたが、先週には政策を実行しても死者が10万~24万人に達すると述べて、現実に即して抜本的に悲観的な見通しに転じた。
・そこでは大都市群を地盤としている民主党とは異なり、新型コロナに対してもとより楽観的だった共和党の性格が影響している可能性もある。実際、トランプ大統領のこの問題への対応についての支持率は低くなく、大統領自身への支持率も上昇している。
・FOMC委員の中でも権力者層の意向に忠実に従って発言内容を変えることで知られるセ円とルイス連銀のブラード総裁も、以前には新型コロナの影響は一時的としていたのが、最近ではトランプ大統領と同様に最も悲観的な見通しを述べているのが注目される。



一気に雇用減少ペースが極端に強まる

 先週はドナルド・トランプ米大統領が米国での新型コロナウイルスの状況について悲観的な認識を示したことや、雇用関連の指標が極めて悪化した内容のものが出たことが市場では株安をもたらす要因になった。
 このうち後者については、まず新規失業保険申請件数が3月12日発表分までは21万1,000件とそれまでの20万~22万件のレンジでのかなり低水準での推移が続いたが、翌19日発表分から28万2,000件(翌週の修正値)と増え始め、26日発表分では330万7,000件(翌週の修正値)と顕著に増加した。そして前週2日発表分では実に664万8,000件とさらにその倍もの水準に膨れ上がった。
 米国では3月中旬まで雇用がかなり堅調な状態で推移してきたが、雇用創出分の多くは接客業その他の賃金水準が低い業種が多く、それが全体の賃金上昇率の伸びを抑えることでインフレ圧力を抑制してきた。新型コロナの影響から一気に経済環境が極端に悪化したなかで、こうした業種は景況感が悪化するとすぐに雇用削減の対象にされやすいことを如実に物語るものといえるだろう。


NFPは急速に悪化していくのを織り込んで発表された公算も

 また雇用統計については、労働参加率が62.7%に0.7%ポイント下がったなかで失業率が4.4%に急上昇した。それ以上に衝撃的だったのが、非農業部門の雇用者数(NFP)が前月比70万1,000人も減少したことであり、減少幅が事前予想の10万人を大幅に上回る極端に弱気な内容になった。その前日に発表された週間新規失業保険申請件数が664万8,000件もの超高水準を記録したことを考えると決しておかしな数値ではないが、サンプリングの対象となる12日を含む週が28万2,000人にとどまっていたので、今回はそれほど弱気な内容にはならないとの見方が強かった。
 雇用統計はもとより当局による恣意的な性格が強いことを考えると、来月に一気に極端に悪化した数値を出すのではなく、今回から今後、急速に低下していくのをある程度織り込んだものを発表したのではないか。だとすれば、失業率は次回には一気に10%程度に急上昇することが見込まれるものの、NFPについてはさらに減少幅が一段と極端に大きくなるような数値は出ないかもしれない。


極端に見通しを弱気に傾けたトランプ大統領

 とはいえ、新型コロナの感染拡大の勢いは中国に続いて、ここにきて死者数が倍程度に上っているイタリアでピークを過ぎつつある兆候が出ているが、感染者数で最多を更新している(本当は中国では政府が無症状者を中心にかなり隠蔽しているといわれているが)米国では先週末時点ではまだその兆しが見られない。そのため、米国の雇用情勢はまださらに悪化する可能性があり、トータルで見れば2,000万人を大きく上回る規模で雇用が失われることで、失業率は一時的に15%程度にまで上昇する可能性があるだろう。

 そうした観点から、トランプ大統領が先週31日にデボラ・パークス新型コロナウイルス対策調整官とともに行った記者会見の内容が注目される。そこでは、トランプ大統領は行動制限などの対策をとっても、米国内で最終的に10万~24万人もの死者が出る可能性を指摘したうえで、「とても苦しい2週間に向かう、厳しい2週間になる」と気を引き締めるように求めることを述べた。
 トランプ大統領は以前には新型コロナは4月になると沈静化するとの見通しを示しており、つい最近でも今月12日の復活祭(イースター)までには米国は通常の状態に戻るとの見方を示して反発を買い、すぐに撤回せざるを得なかったものだ。


温暖化しても猛威を振るう状態が続き弱気見通しに

 どうしてトランプ大統領はつい最近まで新型コロナに対して楽観的な見方を示していたのかというと、他のコロナウイルスは高温や高湿度を嫌う習性があり、北半球では夏季が近づいてくると自然に勢いが衰えて終息するとの見方には根強いものがあり、その見解に影響を受けた面もあるかもしれない。実際、03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)は春季を迎えて気温が暖かくなると勢いが衰えたものであり、実際に7月には終息宣言が出されている。今回の新型コロナウイルスも実際に中国からは気温が暖かくなると、また米国からも湿度が上がると活動が鈍るといった研究報告が出ている。
 しかし、現実には今、米国では“猖獗を極める”ほどに猛威を振るっており、少なくとも現時点ではまだ勢いが弱まる兆しが見えない状況において、見解や姿勢を改めざるを得なくなったものだ。


新型コロナで危機的状況に陥っても支持率は底堅く推移

 あるいは、そこにはトランプ大統領が所属している政党の性格を指摘する識者も見受けられる。新型コロナの感染拡大が深刻な地域はいうまでもなく人口が密集している有力な都市群が多いが、それは主に東海岸や西海岸、中西部の大都市群といった民主党が地盤としているところが多いのに対し、共和党が強い地域は田園地帯で人口密度が少ないところが多いといったことはそれなりに関係しているかもしれない。
 そこで注目されるのは、AP通信と全国世論調査センターが今月1日に行った世論調査では、トランプ大統領の新型コロナの対応への支持率は44%と過半数を割っているものの、深刻な状況に陥っている割にそれほど低くないことだ。さらにそこでは、共和党の支持者に限れば実に82%に上っているあたり、トランプ大統領の新型コロナに対する対応は同党の性格にかなり影響を受けている可能性がある。
 さらにいえば、連邦政府の新型コロナへの対応という視点で聞くと支持率は38%にとどまっているあたり、トランプ大統領への支持率がそれより6%ポイント高いのは、大統領自身の強烈な個性から嵩上げされている状況が示唆される。実際にごく最近、ワシントン・ポストとABCが行った世論調査では、トランプ大統領の支持率は48%と前回2月調査時点から5%ポイント上昇していたものだ。


注目すべきブラード委総裁も超弱気派に転身

 だとすれば、トランプ大統領がつい最近まで新型コロナに対してそれほど深刻な問題ととらえず、それほど大きな関心も示してこなかったのは、大統領自身の資質に共和党の政党としての性格がそこにさらに影響を与えていることによるものといえなくもない。ただ筆者は、米連邦公開市場委員会(FOMC)委員の中でも、権力者層の意向に従って発言内容を変えることで知られるセントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁の発言の経緯も、トランプ大統領のそれと似ていることに注目している。
 ブラード総裁は少し以前には、新型コロナの影響を「一時的なものに過ぎない」として特に問題視する姿勢を示してこなかったが、ごく最近では米国経済の見通しについて、「4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率はマイナス50%程度まで低下し、失業率は30%程度まで上昇する」と発言し、極端に最も弱気な見方を披露していた――すなわち、トランプ大統領と同じような姿勢を示しているわけだ。
 ただし、ブラード総裁が積極的に現状認識を抜本的に変えたのに対し、トランプ大統領はもしかしたら、“嫌々ながら”現状を肯定せざるを得なくなっている可能性があることは付記する必要があるだろう。


 明日からは再び新型コロナの問題を考察します。
 今回は新型コロナの問題が高まったことで、米国と中国の関係がかなり悪化していることに焦点を当てて考えます。
 明日はまず、新型コロナの感染爆発が中国でピークを過ぎた一方で米国で危機が高まっているなかで、両国間の雰囲気について押さえておきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。